2006年3月3日(金)「しんぶん赤旗」

命にまで格差

70歳以上の長期入院

食・居住費で新たな負担

「優しくないねえ」


 政府・与党が今国会に提出した医療改悪法案は、今年十月から、慢性期の長期入院患者が入る療養病床の七十歳以上のお年寄りに、新たな負担を課しています。昨年、療養病床に入院した川崎市の中里チヨさん(80)は、「まるで入院するなと言われているみたい」と憤りを口にしました。

いまでも保険外

 「火の中に足をいれたように熱くなって、お尻からひざ裏にかけてビリビリしびれる」。チヨさんは、介護保険で借りた電動で上下するベッドに腰掛けて訴えます。昨年二度、腰部脊柱(せきちゅう)管狭さく症で入院しました。手術し順調に回復しましたが、最近は右足が痛みます。股(こ)関節の変形性関節症。室内でも左手でつえをつき、家具につかまってゆっくり移動するのがやっとです。

 チヨさんは昨年二度目の入院で、手術後に療養病床をつかうことになりました。手術があったときは、半月で入院費用の窓口支払いが、十万円を超えました。手術のないときでも入院費は、月十三万円ほどかかります。

 入院費は、高額療養費制度で、保険の一割負担分については月四万二百円を超える医療費の差額が返ってきます。しかし、いまでも月約二万四千円の食材料費は保険外負担のため、払い戻しの対象になっていません。

 医療改悪法案ではさらに、療養病床に入院する七十歳以上の人の、食費(調理コストと食材料費)月四万二千円と、居住費(水光熱費相当分)月一万円を、保険給付の対象から外します。食費・居住費だけで月二万八千円の負担増になります。

 負担増額を聞き「戦後、一生懸命働いてきて、いよいよ人生無理できない年になってきた。せめて医療だけは安心してかかりたいのに」と顔を曇らせるチヨさん。

 チヨさんは一九四四年、看護師の養成所を卒業後、従軍看護婦として、東南アジアに行きました。戦場では、負傷して手足のない兵士を機銃掃射のなか看護しました。海を移動中、船が撃沈され漂流したこともありました。四八年に帰国したあとは、戦死した兄に代わり一家の大黒柱として働きました。「日本の高度経済成長を看護の現場から支えた」との思いが胸にあります。

貯金を取り崩す

 看護師として四十七年間勤め、現在受け取る自分の年金は月十七万円程度。年金からは介護保険料や税金が引かれます。この間、介護保険料の値上げや老年者控除の廃止などの税制改悪で、チヨさんの年金の手取り額は年間約九万円減りました。入院すれば生活費の多くが入院費用に回り、貯金を取り崩す生活です。「今度は自分がみてもらう番と思ったのに…。優しくないねえ」。チヨさんは痛む右足をさすりながらつぶやきました。

 (藤川良太)


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