2006年2月28日(火)「しんぶん赤旗」
鼓動
固い抱擁 国境超え
トリノ閉幕
世界の選手たちの笑顔があります。観客席にも笑顔がありました。肩を抱きあい、手をとりあっての入場。閉会式のテーマ「カーニバル」にあわせ、変装しながら、記念写真をとりあい、はしゃぐ八十の国と地域の若人たち―。たたかいを終えた後のなごやかな交歓は、国境をこえて集い、友好を深めるスポーツの生きた力を示しました。
二十回目を迎えた「雪と氷の祭典」トリノ五輪が二十六日、幕を閉じました。トップ選手がくりひろげた熱戦の数々。そのなかで、とくに胸に残る場面がありました。それは互いの健闘をたたえあう姿です。
競技最終日に行われた最も過酷な種目といわれるクロスカントリー男子50キロフリー。ゴール後、ばたばたと倒れこんだ選手が次々と体をかかえあい、力をふりしぼった相手を祝福していました。
また、ショートトラックの男子五千メートルリレーでも、はげしく競り合った韓国、カナダ、米国の選手たちが肩を抱き、握手を交わしていました。女子スーパー大回転では、0秒27差でメダルの色を分けた選手同士の固い抱擁がありました。
そうした場面は各競技でみられました。国際オリンピック委員会のロゲ会長も閉会のあいさつで「選手たちはフェアプレーと人類愛の精神でわれわれを魅了した」と話し、平和の源となるこうした姿勢を大会の特徴にあげました。
「9・11テロ」後に開かれた前回のソルトレークシティー大会は、「USA」の大合唱がつづくなかで、不正判定疑惑やドーピングに揺れ、五つの輪が崩れかけました。しかしトリノ大会は、傷ついた五輪の信頼を取り戻す契機になりました。
同時に、冬季五輪が抱えてきた自然との共生や競技施設の後利用などの課題を克服できず、先送りした面もあります。
光と影を残しながら、冬季五輪は次の二〇一〇年、バンクーバー大会(カナダ)に引き継がれました。(トリノ=代田幸弘)