2006年2月26日(日)「しんぶん赤旗」

06年政治考

野党の追及あるべき姿は

民主メール問題


 「窮地」「迷走」「大混乱」…。いま民主党・永田寿康衆院議員の質問に端を発した「メール」問題が、連日、マスメディアをにぎわせています。

 永田議員が、武部勤自民党幹事長の二男への資金提供を指示したとされる「堀江メール」を十六日の衆院予算委員会でとりあげてから十日。政府・与党の側から「ガセネタだ」(小泉純一郎首相)と反論され、本物だという証拠を示しえないで窮地に陥っています。前原誠司代表自身、「百パーセント、メールの確証がないということには、われわれに非がある」(二十四日)と認めています。

 この問題は、「野党の質問の信頼性が揺らいで…議会制民主主義の危機を招いた」(「東京」二十四日付社説)というように、国民の政治不信にまで拡大しています。

裏付け最重要

 政権党に対する野党の追及はどうあるべきなのか――。

 民主党の中堅衆院議員は「問題が問題だけに相手が攻撃してくるのは必至。しかし、攻撃に耐えられるものが執行部から出てくると思ったが、なかった。(メール問題を)知らされない自分たちは慌ててしまった」と嘆いています。

 野党が政府・与党の疑惑を本格的に追及しようとするなら、その材料や資料は間違いのないものでなければならないはず。ところが、民主党内からは、“権力がない野党の追及というのは、あんなもの”などという声さえ聞こえてきます。

 政治研究者の江藤俊介氏は「野党に対しては、与党への不満やうっぷんを含めてさまざまな情報が寄せられる。だからこそ、それをいかにきちんと選択して調査し、裏付けるかが問われる」と指摘します。小松浩・神戸学院大教授も「真偽を説明できないというなら、国民と国会をばかにしたことにもなる。かえって自民党を喜ばすことになるのではないか」と語ります。

共産党の場合

 同じ「メール」問題でも、「東京」二十五日付は、日本共産党の井上哲士参院議員の追及を紹介しています。防衛施設庁が地方議会に圧力をかけたメール内容の暴露は、政府も認め、基地を抱える地元で反響を呼びました。

 ここ数年の国会をみても、核密約問題(二〇〇〇年)、官房機密費(〇一、〇二年)、イラク派兵問題での防衛庁内部文書(〇三年)など、共産党の追及がマスメディアでも大きく取り上げられました。

 江藤氏は「共産党はこの間の国会論戦をみても確かな追及をしている。今回の問題は、政党としての民主党の弱さを示したのではないか」と指摘しています。


政府・与党追及 共産党はこうした

 「私たちは、疑惑を追及する、あるいは問題を提起する場合、政府・自民党という権力をもっている相手ですから、100%確証をもっているものを提起することが基本です」。日本共産党の志位和夫委員長は二十二日放映のCS放送・朝日ニュースター「各党はいま」で政府・与党を追及する野党の質問のあり方について問われ、こう語りました。それを示す実例はいくつもあります。

政府に存在認めさせる メール 

 「『メール』をめぐる情報提供が国会質問に結びついた例は、最近もあった」。「東京」二十五日付が「送信メール」問題の検証記事で、こう紹介したのが日本共産党の井上哲士議員の質問です。

 井上氏は、今月一日の参院予算委で、防衛施設庁の「地元調整本部事務局総括班長」が昨年十二月に出したメールの問題をとりあげました。メールは、全国八つの防衛施設局施設部長を含む十五人に、「地元議会の反対意見書採決の動きに関する情報提供」を「お願い」し、「そのような議決をしないよう関係者の理解を求める動き」を求めたものでした。

 質問の反響は大きく、神奈川、沖縄など基地を抱える地元紙が大きく報道。社説でも、「民意を反映する地方議会、地方自治への姑息な介入ではないか」(沖縄タイムス三日付)と、とりあげられました。額賀福志郎防衛庁長官もメールの存在を認めざるを得ませんでした。

 井上氏は、「文面を見れば、関係者にしか書けない内容です。しかし、謀略の場合もあります。ニセ物を使って質問したら、ひんしゅくをかい、攻撃の口実を与えることになります」と慎重に調査を重ねました。そして、受け取り人十五人のうち十二人が現役の防衛庁幹部であることを確認したうえで質問したのでした。

動かしがたい公文書で 核密約 

 “100%間違いないという確証にもとづいて問題提起する”―この政府追及のあり方を最もよく示したのが、二〇〇〇年三月から四月にかけて不破哲三委員長(当時)が党首討論など計六回の質問でおこなった核密約の暴露・追及でした。

 核密約とは、日米安保条約締結時に“アメリカの軍艦や航空機が、核兵器を積んだまま、日本の港や空港に出入りすることを認める”という秘密協定を結び、現実にこの秘密協定にもとづいて日本に核兵器が不断に持ち込まれていたという問題です。この密約は、「装備における重要な変更」は日本政府と事前協議するという取り決めにも反するし、「作らず、持たず、持ちこませず」という「非核三原則」を虚構のものにする重大問題でした。

 不破氏は、この密約問題をアメリカ政府自身が公開した外交文書にもとづいて徹底追及。その追及のやり方を、不破氏自身、次のように明らかにしています。

 「私は、自分の問題提起が、『核密約』の全文をはじめ、アメリカ政府の公開文書に裏付けられていることを明示し、政府側にも対応する文書を手渡した上で、質問をしたのです。とくに必要な場合には、事前に文書を渡して、十分研究して討論にのぞんでくれと、注文したこともあります」(『私の戦後六〇年』)

 事実をつきつけた不破氏の追及に、自民党政府は「密約はなかった」と繰り返すだけでした。しかし、この追及の確かさは、同じ年の「朝日」八月三十日付で「日米安保密約の全容判明核寄港は事前協議せず 朝鮮有事での出撃も 米国務省文書に明記」という大見出しで独自の調査内容を大々的に報じたことでも裏付けられました。

3つの角度で徹底検証 機密費 

 “政治腐敗の奥深い闇”として大きな問題となったのが、内閣官房機密費です。外務省の機密費流用疑惑を契機にしたこの問題で、日本共産党は二〇〇一年、「報償費について」という内閣官房の引き継ぎ文書を志位和夫委員長が暴露し、外務省からの「上納」疑惑も明らかにしました。

 翌年には、官房機密費の「会計帳簿」を提示。野党対策など、政治工作に使われていた奥深い闇の全容を、収入、支出、政治的背景の三つの角度から、歴史的事実や証言などで徹底的に検証したのでした。

 内閣官房の引き継ぎ文書については、筆跡鑑定によって、当時の内閣官房副長官の筆跡だったことが裏付けられました。野党工作の事態についても、配った方の歴代官房長官や受け取った側の野党幹部など当事者が次々と認め、否定しようのない事実として確定しました。


メール問題の推移

16日

 衆院予算委員会で永田議員が問題のメールの存在を指摘。武部自民党幹事長は否定。前原民主党代表は「確度は高い」と発言。小泉首相は「ガセネタ」と批判。東京地検の伊藤次席検事が、メールの存在は把握していないとコメント。

17日

 堀江被告が接見した弁護士に「メールは送っていない」とのべる。衆院予算委員会で集中審議。自民党・逢沢議員が「永田議員の発言は名誉棄損」と批判。永田議員は再びメールをとりあげたが、真偽の立証ができず、「本当に悩ましい」とのべる。民主党が黒塗りしたメールのコピーを公表。

22日

 党首討論で前原氏は、ライブドア社から武部氏側への資金提供について「確証をえている」として、国政調査権の発動を要求。小泉首相は「民主党が具体的な証拠を掲げて、(メールは)本物だといえば済むことだ」と一蹴(いっしゅう)。

23日

 永田議員が辞意の意向を党執行部に伝える。出処進退の結論は先送りし、永田議員は入院。


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