2006年2月20日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

巨樹は環境のセンサー


 屋久島(鹿児島県)の縄文杉に代表されるように、大きさでも樹齢でも人間を圧倒する巨樹。その巨樹・巨木の調査や保護をはじめ、巨樹ツアー観光など、地域づくり、町おこしに力を入れる自治体があります。徳島県つるぎ町と山形県最上地方のとりくみ、また「巨樹は環境のセンサー」だと訴え、保全運動を続ける画家、平岡忠夫さん(77)の話を紹介します。


徳島・つるぎ町

先人が守った財産継承

地図

 つるぎ町は徳島県の北西部に位置します。四国霊峰で名高い「剣山国定公園」の表街道にあり、すばらしい自然を満喫できる町として、昨年三月貞光町、半田町、一宇村の合併で誕生しました。

 その一宇地区に、日本一のエノキをはじめ、アカマツ、トチノキなどの巨木を有する「巨樹の里いちう」があります。

 剣山系の山々に囲まれ、急傾斜面に民家が点在する、特有の山村集落を形成しています。地域の90%ほどが山林で、以前は農林業を主体としていました。戦後日本の経済成長とともに青少年が都会へと流れ、昭和三十年(一九五五年)をピークに人口は減少。過疎化とともに森林の荒廃化がすすみつつあります。

 そこで一宇地区は、自然あふれる古里の自然を見つめ直そうと巨樹調査をおこないました。一九九八年五月、全国巨樹・巨木林の会の平岡忠夫氏にご協力をいただき、村民の情報をもとに一週間の調査を実施しました。

 その結果、日本に誇れる巨木が次々と確認されました。

 赤羽根大師の大エノキ(全国一位、幹周り八・七メートル)

 奥大野のアカマツ(四国一位、五・六メートル)

 桑平の大トチ(四国一位、八・五メートル)

 白山神社の大モミ(四国二位、六・五メートル)

 津志獄の大シャクナゲ群生(規模、大きさとも比類なし)

 十一種類二十四本の巨樹類でした。

 その後、天然記念物の指定とともに、樹木医による診断と外科的治療、保護・保全対策などをすすめながら継続調査をおこない、現在は二十三種類九十一本の巨木を有する「巨樹の里いちう」が誕生しています。

 その自然がつくりだす美しさと雄大さ。これらのすべてが歴年の保護・愛護によって先人が守り、継承してきた偉大な財産です。

 自然破壊が問われる昨今、環境の変化に敏感な巨樹の保全に力をいれながら、巨樹ツアーなどを通じて、町民や観光客の自然保護意識を高めていきたいと思っています。

 地元住民がつくった、苔(こけ)玉に巨樹の実が入っている「巨樹っ子」や「巨樹っ子と水苔でつくった苗木飾り」などの普及などで自然と環境保護の意識の啓発に努めています。

 (つるぎ町商工観光課長・葛籠孝也)

山形・最上地方

多様な種類 ツアー人気

地図

 山形県北東部の八市町村からなる最上(もがみ)地方。奥羽山系と月山山系に挟まれ、森林面積が八割を占めているこの地方には多くの巨木があり、近年、地域の大切な財産として光があてられています。

 最上町の通称「権現山の大カツラ」(幹周り二十・〇メートルで全国一位、樹高四十メートル、樹齢千年以上)をはじめ、樹種別で全国上位十位に入る巨木だけでも二十本以上がズラリ。種類も多様です。

 一九九八年の秋、最上山岳会(坂本俊亮会長)が金山町で幹周り十二・五メートルのカツラを発見したことが、巨木調査のきっかけでした。

 住民の情報提供なども得て調査・計測がすすみ、地元の人にはよく知られたなじみの木が、全国有数の巨木であることが次々と判明。今では、最上地方の一市四町三村すべてで、巨木が確認されています。

 鮭川村の「小杉の大杉」(幹周り五メートル)はアニメ「となりのトトロ」で描かれた巨木とそっくり。大きな三角形を描いたシルエットと、大きなスギが寄り添うように並んだ姿は、「夫婦杉」「縁結びの杉」として親しまれています。

 戸沢村の土湯(つちゆ)杉群生地は、「幻想の森」の呼び名を持つ風変わりな巨木地帯。幹や枝が大きくわん曲した巨大な杉が立ち並び、非日常の感覚を味わうことができます。

 「発見」された巨木には、マタギ信仰など地元住民の生活や伝承に密接に関係したものもあります。戸沢村の「津谷の大ヤナギ」は、はし代わりに使ったヤナギを地面にさしたら根を張り成長したといういわれがあります。

 県と八市町村などでつくる最上地域観光協議会は、巨樹を保護し地域づくりに生かそうと、交通各社や温泉旅館とも連携し、五年前から「巨木ツアー」を開催。手探りの試行錯誤のなかでも、このツアーには県内外、首都圏からの参加もありました。

 同協議会事務局を担当する県商工労働観光課の高山敬二・観光振興主査は、「私も同行していますが、巨木の大きさには多くの方が感心されます。まだ数年のとりくみなので、巨木の保護もしながら、若い観光資源として大切に育てていきたい」と話しています。

 (山形県・高橋宏治)


巨樹とは 環境省は、一九八八年と二〇〇〇年に巨樹・巨木林調査を実施しています。原則として、地上から一・三メートルの高さで幹周り三メートル以上の木を巨木と定義しています。

 八八年調査では全国で五万五千七百九十八本を確認。二〇〇〇年調査では、新たに巨木が発見される一方、枯死、伐採などで失われた巨木が千六百六十本報告され、巨木数は六万四千四百七十九本でした。


全国巨樹・巨木林の会副会長、巨樹画家

平岡忠夫さんに聞く

 私は二十数年前から巨樹画を書き続け、さまざまな人たちと全国を歩いて巨樹調査をしてきました。絵は今、二千三百二十枚で、三千枚をめざしています。

 調査して気が付くのは、昔日本には、でっかい木がいっぱいあったということです。水や森の信仰、人間のくらし、農作業などと結びつけ大事にしてきた。「種まき桜」などは稲作りに欠かせない。富山の「雪持ち林」(防雪林)は人を守ってきた。木が命とくらしにつながっていたのです。

 それを住居の建築などで切ってしまった。だからいま残っているのは神社・仏閣、人の入れない山奥などです。

 その巨樹がまた、非常に危なくなっています。私は「巨樹は環境のセンサー」だといっています。年をとっている木は非常に傷みやすい。私が絵にした巨木で、その後なくなったものが何本もあります。当時日本一だった静岡県の「函南原生林のブナ」も一昨年に枯れてしまいました。

 一番の要因は、地球温暖化と酸性雨など大気汚染にあると思います。異常な台風で倒れてしまう木も相次いでいます。ナラ類がものすごい勢いで枯れています。巨樹が枯れるということは、やがて森全体が死ぬということです。

 そのため、ドイツなどヨーロッパでは、チームを組んで森の網の目調査をやっています。「調査は森の体温計だ」と。まず正確な調査です。その点、日本は非常に遅れています。いま、保全のため、官も民も全力をあげるべきです。

 木は空気をきれいにしてくれる。根っこは山を支え守っている。われわれと同じ生き物ですよ。しかも巨木は、風や寒波にきぜんとして耐え、何百年も生きている。すごいじゃないですか。日本にはこんな「お宝」があるのです。

 巨樹を守る心は森と自然環境を守る心です。子どももおとなも連帯して、森に関心を持つことが大事です。

 夏の木が元気な時、好きな森の中に岩など定点をつくり、そこから上を向き、木と葉っぱの写真を撮ることをおすすめします。何年、何十年か続けると、木の変化がわかります。見える空が増えたら木が危ない。それを点から面に、大勢でやると正確なデータになります。ぜひこの運動を提唱したいですね。


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