2006年2月19日(日)「しんぶん赤旗」
2006トリノ
なぜ??日本勢不振
トリノ冬季五輪で日本勢の不振が続いています。有望種目で表彰台にあがれず、大会8日を経過し、メダルはゼロ。大舞台で「力を発揮できなかった」、他の国の予想以上の伸びに阻まれるなど、要因はさまざま。しかし日本の冬季競技が長野五輪後、低迷状態にあるのは確かです。要因や背景を現地からのリポートも交えて検証します。(代田幸弘、和泉民郎)
現状認識の甘さ
「メダル5個を最低目標にして、あとどれだけ積み増しできるか」
日本選手団の遅塚研一団長は大会前から、こう言いつづけてきました。
しかし、外国勢の分析の甘さ、世界の動向を踏まえない強化策などが表面化しました。
顕著だったのがスノーボードのハーフパイプ(HP)です。
五輪前のワールドカップ(W杯)で好成績をつづけていたHP陣。日本代表の佐々木峻監督も「最強の布陣。このメンバーで負けるわけがない」と自信満々で本番へ。ところが、ふたを開けてみれば米国勢の力が際立ち、日本との差は歴然でした。本紙で国際審判員の佐藤幸一さんが「米国はW杯に出場しないため、情報収集ができていなかった」と指摘しています。
モーグルも目まぐるしく変わる採点傾向に対応できていませんでした。長野五輪男子モーグル代表の三浦豪太さんも「日本の対応は遅れた。過信があったのと、人材活用の点で問題がある。チームとしてもバラバラだった」と指摘しています。
遅れる世代交代
世代交代の遅れも目につきます。
スキー・ジャンプは主力のほとんどが、長野五輪世代。原田雅彦(雪印)の37歳を筆頭に岡部孝信(雪印)は35歳、葛西紀明(土屋ホーム)は33歳です。ソルトレークシティー五輪代表コーチだった古田修一さんは「若い選手は4、5年先を見据えて育てないといけないが、それを怠った。本来は若手をどんどんW杯に出すべきなのに、成績がでないと、ベテランと差し替える。連盟のトップが結果を欲しがるからだ。でもこれでは育たない」と、強化のあり方を問題視します。
若手が育たない背景には、企業スポーツの衰退も大きい。
長野五輪以降、ジャンプでは葛西の所属した地崎工業やマイカルが相次いで廃部となり、スケートでは堀井学などを輩出した王子製紙、今井裕介の所属したメッツもなくなりました。
ジャンプやスケートの実業団では「新規に選手を取るのは控えている」というところも多い。清水宏保などのようにスポンサーを募る選手も出てきています。しかし、その清水が「僕みたいな選手がもっと出てくることが望ましい。でも、日本の選手層が薄いのは、このまま競技を続けてもメリットがないと思うからではないか」といい、選手が十分な評価を受けていない現状を吐露しています。
競技団体の「世代交代」も遅れています。たとえば、日本スケート連盟の理事の平均年齢は70歳をこえます。ある関係者は「高齢化で柔軟性がなく、ご意見番的な古い体制になっている」といいます。現場の声をしっかり判断し、評価し、アドバイスできる組織になっていません。
さらに先の関係者はいいます。「米国のスケート連盟会長は40歳代。日本も若返り、新しい発想にならないと、世界から取り残されてしまう。冬季競技が出直すためには、トップの改革が必要」
貧困な練習環境
練習環境もお寒い状況です。
スピードスケートでは、日本が連続してメダルをとってきた短距離で、ロシア、中国、韓国の台頭が目立ちました。うちロシア、中国は室内リンクをつくり、年間を通して強化に使えるような体制になっています。米国、韓国も冬季競技専用のナショナルセンターがあります。
日本はどうか。長野市のMウエーブの使用期間は10月から3月まで。夏場は海外に出ていかざるを得ず、費用の工面がつかない選手も多い。ショートトラックの川上隆史監督は「日本の選手が練習できる時間は、韓国の三分の一程度」と嘆きます。
Mウエーブやスパイラル(そり競技専用施設)は、管理する長野市が国にたいし、ナショナルトレーニングセンターとして、助成金を出すよう申請したものの、はねつけられました。
同市によれば、Mウエーブを年間使うためには改修が必要なものの、「運営経費は4億から5億円程度」といいます。廃止の声も出ているスパイラルも年間の経費は1・8億円です。
小泉首相は1月22日、トリノ五輪の壮行会で選手、関係者を前にこう自慢げに話しました。
「私はこの間、国会で『トップレベルのスポーツ選手育成と国民が生涯を通じてスポーツに親しめる環境を整備する』と話したばかりなんです」
しかし、国のスポーツ予算は大きく落ち込んでいます。長野五輪の年である1998年当時の国(文科省)のスポーツ予算は、総額363億円。今年度は215億円と6割近くに。大きな理由は、サッカーくじが導入されたことですが、予算規模を98年レベルに戻すだけで、施設経費は捻出(ねんしゅつ)できます。
ある競技の日本代表監督はこう指摘します。
「冬の競技は全体的に長野五輪のときより予算が減っている。サッカーくじでスポーツ予算が増えないのははっきりしている。もう、そんなものに頼るのはやめるべきだ。国に出してもらうなど、早急に対策を取るべきです」