2006年2月17日(金)「しんぶん赤旗」
日航経営陣内紛の背景
安全無視、トラブル続出
リストラに現場の不満
日本航空の経営再建方針をめぐって、事業会社の日航インターナショナルの役員四人がグループ会社の部長級数十人の賛同署名を携えて、新町敏行社長兼最高経営責任者(CEO)ら「日本航空」の代表取締役三人に退陣を求めた問題は、一大企業の人事問題を超えた問題として、注目を集めています。“日航内紛”の背景を追いました。(米田憲司)
日航関係者の話を総合すると、ことの起こりは十日午前、日航インターナショナルの深田信常務ら四人が新町社長、羽根田勝夫副社長、西塚英和専務三人の退陣を求めました。新町社長はその場で退陣要求を拒否したといいます。
日航は二〇〇二年十月に日本エアシステム(JAS)と第一段階の経営統合を行い、今年十月には完全統合で一社化する予定です。が、経営戦略、規模、安全マニュアルなどが違う企業同士の統合は簡単ではなく、十月の統合も危ぶまれています。
■責任なすりあい
その一方で、運航トラブルを続出させ、国土交通省から一九九九年二月と二〇〇五年三月の二回に渡って「事業改善命令」を求められています。新町社長は「安全第一」を強調してきましたが、現場労働者の意見には耳を傾けないパフォーマンスだけの改善対策は功を奏さず、今年一月には改善策の再提出を求められる始末です。
今回の“内紛劇”に対し、運航乗員や整備の現場の受けとめは、概して冷ややかです。十年にわたって「空の安全裁判」をたたかってきた乗員組合の幹部は「和解しながら判決に従わない経営者に安全を語る資格はないし、期待もできない。安全重視、法令順守といいながら会社自ら無視している。責任のなすり合いではないか」と厳しく指摘します。
ある機長は「規制緩和策によるコスト削減とリストラ等に対する現場の批判と不満をバックに、経営者の一部が危機感をもって退陣を迫った側面もあるが、経営者の中の勢力争いの感もある」といいます。
退陣を迫られた三人の経営首脳は、二回目の「事業改善命令」で引責辞任した兼子勲CEO(現顧問)の“交替劇”の後遺症を引きずっているとの見方があるからです。労務畑出身の兼子氏の腹心といわれていた新町社長と西塚専務に対し、羽根田副社長は営業畑の利光松男元社長のラインで、三者の間がしっくりいっていなかったと指摘する幹部もいます。
■人件費削減案
経営陣は昨年三月、人件費削減を中心とした「〇五年〜〇七年度中期計画」を発表。二千五百億円の利益をめざしています。十一月には全社員を対象にした平均10%の賃下げや不採算路線の廃止、四月からの運賃値上げなどを中心にした経営方針を発表しましたが、労組からも「経営責任を明確にしないと協力できない」とそっけなく受けとめられています。
相次ぐトラブルによる利用客離れと燃料費等の高騰で、〇六年三月期連結決算の損益は四百七十億円の赤字となる見通しです。日航内の八労組は「二月に発表する『中期経営計画』の人員削減を凍結し、自社運航、自社整備を復活させて名実ともに航空会社として利用者の方々に安全性に責任を持つ体制を構築しないと、企業の再生はおろか、大事故の起きるのを待つだけになってしまう」と深刻な表情で語っています。