2006年2月14日(火)「しんぶん赤旗」

底流・ほん流

「パイの理論」が破たん


 〇六春闘は久しぶりに「賃上げ」(ベースアップ)をめぐる攻防が焦点になります。

 連合傘下の主要な産業別労働組合は鉄鋼が六年ぶり、電機が五年ぶりに賃上げ要求の方針を決めました。自動車も四年ぶりで、トヨタ自動車労組も千円のベースアップ要求を決めました。相次ぐ賃上げ要求の背景に何があるのでしょうか。

 「企業業績は好調で、株主配当の増額、企業の内部留保の積み増しなど資本への配分は大変厚みを増している。その一方で労働分配率は低下を続けている。さらに定率減税の全廃など政府はサラリーマン増税策を次々と打ち出し、労働者の家計は疲弊している」

 今月三日に東京都内で開催された連合の〇六春闘闘争開始宣言中央集会で、高木剛会長は賃上げ要求の根拠についてこう訴えました。

■利益分配偏り

 賃上げに踏み切った背景には、この数年の賃金抑制に加え、家計の可処分所得を目減りさせている小泉「構造改革」によるサラリーマン増税や医療費の自己負担割合の増加など社会保障の切り捨てがあります。

 〇六年三月期に上場企業の連結経常利益が三期連続最高を更新する見通しです。その一方でこの数年来、労働分配率は急速に低下しています。連合の調べによると、一九九八年度に65・0%あったものが、二〇〇四年度には61・2%に大きく下がっています。

 労働分配率とは付加価値(売上高から原材料などを差し引いた残り。これを資本と労働で分ける)のどのくらいを労働者に配分したかを示す指標です。つまり付加価値総額における賃金や福利厚生費の比率です。

 「利益の分配構造がこの数年、資本側に偏っている。経済成長に見合った労働者側への配分として1%以上の成果配分を求めていく」と高木会長は強調します。

 これを裏付けるように、労働者の賃金総額は一九九八年から七年連続マイナスとなり、大企業からコスト削減などを迫られている小規模企業の労働者ほど賃金低下がひどくなっています。

 「三百人未満の企業ではこの四年間でおおむね五千円低下している」(JAMの小出幸男会長)状況で、マイナスベアをなくすことが〇六春闘の最大の課題と位置付ける労組もあるほどです。

■賃金抑え込む

 日本経団連は、日経連時代から「生産性基準原理」と称して、賃金の引き上げは生産性の伸びに見合った範囲内にすべきと主張してきました。しかし、実際には自らの主張とは反対に生産性の伸び率以下に賃金を抑え込んできました。

 労資協調主義を支えてきた「パイの理論」は完全に破たんをきたしています。賃金は生計費でなく「生産の分け前」で決めるというこの理論は、「パイすなわち生産自体を大きくしなければ賃金は上がらない」という理屈で生産性向上に労働者を積極的に協力させる役割を果たしてきました。

 しかし、三期連続の一兆円超の純利益を見込みながら、労組のベア要求に首を横にふるもうけ頭のトヨタ自動車に見られるように、その破たんは隠せません。

 財界・大企業は、「春に闘う『春闘』ではなく、討議の場としての『春討』に」と春闘の解体を求めています。

 その期待とは逆に、全労連だけでなく連合系の労働組合も賃上げ要求を掲げ、サラリーマン増税反対で行動するという新たな情勢が生まれています。

 労働者の不満が高まるなか、労働運動の立場の違いを超えてたたかいが大きくひろがりを見せているのが〇六春闘の特徴といえます。


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