2006年2月8日(水)「しんぶん赤旗」
主張
トリノ冬季五輪
アルプスに響け平和の願い
第二十回冬季オリンピック大会が、イタリアのトリノ市で十日に開幕します。
アルプス山脈の南ろくの地に、これまでで最多の八十五の国・地域から約二千五百人の選手が集います。
日本も史上最多の百十二人(男子五十九人、女子五十三人)の選手団を派遣します。なかでも、フィギュアスケートやスノーボードなど十代の若い選手は伸びざかりの勢いを感じさせます。もちろん、スピードスケートやジャンプなどのベテラン選手も気を吐くことでしょう。
■世界の舞台で
すべての代表選手がオリンピックの舞台で実力を存分に発揮し、世界の競技者たちと大いに交流して友好を深めてほしいと思います。
ちょうどいまから五十年前の一九五六年に開催された、同じイタリアのコルチナ・ダンペッツォ大会では、アルペンスキー男子回転で猪谷千春選手(現国際オリンピック委員会=IOC=副会長)が冬季大会初の銀メダルを獲得しています。今度はだれが金字塔を打ち立てるのか、楽しみです。
五六年の大会では、トニー・ザイラー選手(オーストリア)が滑降・大回転・回転の“アルペン三冠王”に輝き、彼を主人公にした映画「白銀は招くよ」は日本でも人気を呼び、スキーブームを招きました。トリノ大会ではどんな偉業が達成されるのでしょうか。
心配なのは、アメリカによるイラクへの不法な侵略戦争などと絡んだ暗い影が被っていることです。
前回のソルトレークシティー大会(アメリカ)は、悲惨な「9・11」同時多発テロと、その報復戦争がアフガニスタンで起こっていたさなかの、厳戒態勢のもとでの異様な大会でした。トリノ大会でも一万人余の警察官が動員され、競技会場の上空への飛行はいっさい禁止されるといいます。それが“平和の祭典”の現実の姿です。
それだけに、この間、イラク戦争に抗して世界でわきおこった平和を願う巨大なうねりが、アルプスの峰々にこだましてオリンピックを包み込んでほしいものです。
冬季大会が抱える問題として、自然との共生の問題があります。山岳自然を相手にする競技が多いだけに、独自に探求しなければならない課題です。トリノからは無公害自動車や節電の話題がいくつか伝わってきてはいますが、はたしてそうした工夫や努力が十分されてきたでしょうか。
九四年のリレハンメル大会(ノルウェー)から「自然にやさしいオリンピック」をかかげてきた冬季大会です。ひきつづき、スポーツが地球環境の保護と保全に貢献できる可能性を切り開いてほしいと思います。
競技の面では、薬物を不正に使用するドーピング汚染が、夏季大会と同様に拡大しているのは残念なことです。主催者のIOCは、前大会の45%増にあたるドーピング検査でチェックする構えです。
トリノ大会が「フェアプレーに徹した大会」として名を刻むことをつよくのぞみます。
■観客と一体で
「オリンピックでは、見てくれる人と心と一体となれるような滑りをしたい」と、フィギュアスケートの村主章枝(すぐりふみえ)さんは語っています。
異常な豪雪にみまわれて、国内外で被害が拡大している時季でもあります。このきびしい現実にも目をむけ、心を寄せ合って、雪と氷に挑む競技者たちの勇敢な姿を追い、明日への勇気をはぐくみたいものです。