2006年2月6日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPress
ここがヘンだよ、日本
バングラデシュ人労働者・留学生に聞く
増える外国人の青年労働者や留学生――。日本にあこがれ、希望を抱いて来日しても厳しい現実が待ちうけています。外国人労働者のための労働組合、首都圏移住労働者ユニオンにも相談が寄せられています。日本をどうみているでしょうか。バングラデシュの青年たちに聞きました。(伊藤悠希)
■保険に入れず 医療費が…
十年前、あこがれて来日したソエルエムディさん(34) ソエルエムディさんは幼いころ、日本は電化製品などの技術が優れていると聞いていました。広島と長崎に原爆が落とされたのに復興して経済成長を遂げた国。そんな国が、同じアジアの国にあるんだとあこがれを持ち、「行ってみたい」と思っていました。
最初に働いたのは、福島県の染め物工場です。時給制で、月給は平均で二十五万円。残業代も出ました。ソエルさんは社長にも信頼され、仕事も任されるようになっていました。「ここでずっと働こう」と思っていましたが、会社が倒産してしまいます。
二つ目の仕事は横浜市。携帯電話に文字を印刷する仕事です。一日十数時間も働きました。収入は多いときで月二十三万円。しだいに仕事が減少し収入は月七万―十万円になりました。そのころ、妻をバングラデシュから呼び寄せ子どもも生まれていました。バングラデシュの家族には仕送りもしなければなりません。
次に働くことになったのは同じ横浜市にあるプレス工場です。時給は千百円。休日は日曜日で、祝日の休みはありません。就業時間は午前八時から午後七時くらいまででした。
せっかくみつけた仕事でしたが、辞めることになります。プレス機に手をはさまれ、けがをしたのです。働き始めて一カ月半のことでした。
会社では、バングラデシュの従業員が同じようにけがをし、首都圏移住労働者ユニオンと団体交渉中でした。続けてソエルさんの事故が起きたため、労災の認定はすぐ出ました。けがをしたソエルさんは五回、手術を受けます。しかし、障害が残りました。
子どもはよく病気になり、風邪をこじらせただけで費用は約二十万円。「税金は払っているのに、保険には入れません。ビザがありませんから。でも、私たちは人間です。病気にだってなります」
ソエルさんは大学を卒業していますが、バングラデシュには仕事がありません。「日本に来たことは間違いだったかも。バングラデシュで働ければ、それが一番なんですが」
■2倍働かされる外国人
■首都圏移住労働者ユニオン書記長 本多ミヨ子さん
相談を受けて一番驚くのは長時間労働です。日本は週四十時間、月に換算すると平均百七十四時間ですが、相談を受けたフィリピン人女性の場合、四人とも約二倍働いています(表)。給料も時給制。残業割り増しは払われていません。
相談は常時二十二―二十五件です。心がけていることは早く解決すること。相談がきたらすぐ動くようにしています。今まで相談に来た人は十五カ国に及びます。友達の紹介で訪ねてくることが多いです。
移住労働者は、相談したくてもどこに行けばいいかわからないでいることがほとんどです。ユニオンがまだ知られていないからです。全国の地域労組に英語だけでもいいから「何か困ったときには相談を」の看板を出してほしいと思います。
移住労働者を、同じ労働者、仲間として見てほしい。移住労働者が相談しやすい環境をつくるために協力してほしいと思います。
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■物価が高く、生活が大変
東京医科歯科大学大学院に留学中のミロンさん(29) ミロンさんは二〇〇四年五月、日本に来ました。日本で歯のレントゲン技術を身につけたいと思ったからです。バングラデシュで歯のレントゲン技術を学んだ人はこれまでに一人だけ。ミロンさんが大学院を修了すれば二人目になります。「自分が帰って、教えることでバングラデシュのためになります」
「日本は物価が高く、生活するのが大変」というミロンさん。両親が高齢なので仕送りはなく、生活費はアルバイトでつくります。
まだ日本語が得意ではありません。首都圏移住労働者ユニオンが開いている日本語教室で勉強しました。「ここは授業料が安いんです。もっと、安く日本語が学べる場がほしい。半年間ほど留学生を受け入れて、日本語を勉強でき、アルバイトの紹介をしたり、情報を提供する施設があればいいと思います」
まだ日本のことがよくわからないミロンさんは訴えます。「日本の青年と交流したいです。留学生を助けてほしい」
■「保証人を」と言われても
来日して十一年、首都圏移住労働者ユニオン役員のシャカワト・ホセインさん(37) 留学生にとって大きな問題は、住居、お金、友人、言葉の四つ。住むところを探すのは大変です。家賃を払うことさえやっとなのに、敷金・礼金が必要です。はじめて日本に来たのに、日本人の保証人を探さねばなりません。どうやって探すというのでしょう。
結局、住むところがなく、アルバイトでも寮完備の会社に入るしかありません。会社から「寮に入っているのだからもっと働いてほしい」と言われ、学校を辞めて働くしかなくなります。最初はビザを持っていても、そういった原因で不法滞在になってしまうのです。自費留学生にとっては住みにくい社会です。
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▼バングラデシュ人民共和国 人口は一億三千八百十万人。首都はダッカ。言語はベンガル語。宗教はイスラム教徒が九割。一九四七年にパキスタン(東パキスタン)として独立。七一年にバングラデシュとして独立。
■お悩みHunter
■世の中を知らない自分にショック
Q私は学生です。昨年、友達に誘われて全国青年大集会に参加しました。経営者に権利を主張してたたかっている生の話にまずびっくり。「不当解雇」があることも初めて知りました。世の中のことを知らない自分にショックでした。もっと生きた学問を学ぶべき、大学のあり方そのものも問われているのではないかと思いましたが…。(19歳、女性。東京都)
■“生きた学問”に挑戦して
Aライブドアの堀江前社長逮捕に、「改革者だったのに残念」と検察への恨みや抗議が殺到したと聞きます。
そんな中で、あなたは、何が本当か、見えていてすごいと思います。「不当解雇」の話から衝撃的に目を開かれ、しかも学問は、これらの問題にもっと切り込むべきではないかと大学のあり方に疑問を抱いています。
本当に大学の授業は、あまりにも趣味的で自己満足的。人々の幸せとは無縁に思えます。「不当解雇」が憲法や労働基準法を無視して行われる日本はどうなっているのか、これらの不思議にも、必ず何らかの法則や政治的経済的な背景、原因が潜んでいるはずです。それらを学際的に分析し、打開への展望を示すのも学問の役割です。
ただ学問は、すべて生きた問題をそのまま扱うわけではありません。一見、むずかしそうで意味不明の理論も、多くの場合、生きた社会現状や自然現象をきっかけに生まれているのです。ニュートンは、リンゴが木から落ちるのを見て万有引力の法則を発見したなどと語られるエピソードは、一つの理論の誕生の瞬間を物語っています。
大学での学問も、抽象化された理論を現実と切り結んだり、射抜く視点を持てると急に立体化し、生きて働きます。大学の改革を待つのでなく、自ら挑んでみてはいかがでしょうか。
■教育評論家 尾木 直樹さん
法政大学キャリアデザイン学部教授。中高二十二年間の教員経験を生かし、調査研究、全国での講演活動等に取り組む。著書多数。