2006年1月27日(金)「しんぶん赤旗」
国保証取り上げ 18人死亡
胃がん男性 「金ない。検査しないで」
2000年以降本紙調査で判明
保険料の滞納で国民健康保険(国保)証を取り上げられ、受診が遅れて病気が悪化、死亡したとみられる人が、国民健康保険法が改悪された二〇〇〇年以降、判明しただけで十八人にのぼることが本紙の調べで分かりました。
|
〇一年五月、五十代男性が静岡県内の病院に、はうようにして訪れました。
「保険証がないけど診てもらえますか。でもお金がないから検査は、しないでほしい」
腹部に触れただけで、しこりが分かるほどの状態でした。病名は胃がん。がんは食道にも転移しており、胃カメラは通らないほど悪化していました。二カ月後亡くなった男性が持っていたのは、病院窓口でかかった医療費を全額払う必要のある資格証明書(資格証)でした。
国保法改悪は、国保料(税)を滞納した世帯からの保険証取り上げを市町村に義務付けたもの。保険証にかわって発行する資格証では、病院の窓口でかかった医療費の全額をいったん払います。あとから七割の払い戻しを受けることになっていますが、払い戻し分を滞納していた国保料(税)として徴収されることもあり手元には戻らないのが実情です。
国保料が払えない人に医療費の全額を準備できるはずもなく、受診を手控え、手遅れで命を落とすといった悲惨な状況が明らかになっています。
死亡した事例のなかには、保険証の期限が切れているのに、新たな保険証も資格証も発行されていないケースが数件ありました。国民皆保険制度のもとでは、あってはならない「無保険」状態です。
本紙は、全日本民主医療機関連合会(民医連)などを通じ、国保料(税)が払えず国保証を取り上げられ、医療機関を受診した段階では手遅れだった事例を集計。国保証のかわりとなる資格証明書(資格証)発行の多い都道府県を中心に聞き取りを行いました。
厚生労働省の全国調査では〇四年六月一日現在で、資格証発行数は約三十万世帯、九七年六月と比べると約五倍に増えています。国保料(税)の滞納も約四百六十一万世帯に上ります。
■高い国保料 引き下げを
中央社会保障推進協議会の相野谷安孝事務局次長の話 国民の所得は減っているのに、国保料は上がりつづけています。滞納者が増えるのは、国保料の高さが原因です。
一九八四年、政府は国保の国庫負担を45%から38・5%まで引き下げました。それ以降、市町村の国保財政は厳しくなり国保料が値上げされるようになりました。
国保料は、制度を運営している各市町村が決めます。サラリーマンなどが入る健康保険料は事業主が半分支払うということもあり、国保料はこれに比べると二倍から三倍という高さです。
大阪社保協の調べでは、大阪市の場合、現役四十歳代夫婦と未成年の子ども一人の世帯で、年間所得が四百万円あると、国保料は年五十三万円。所得の一割を超えます。さらに、年金生活の高齢者の一人暮らしでは、所得三百万円で五十三万円です。
国保の崩壊は、国がすべての国民に医療を保障するという、誇るべき国民皆保険制度の空洞化を意味します。これを立て直すには、もう一度、国保は社会保障という国保法一条の精神に立ち返り、国庫の負担率をとりあえず元に戻すことです。
また国保証の取り上げを許さず、“絶対に資格証を出させない”という、早急な対応も必要です。