2006年1月26日(木)「しんぶん赤旗」
過労死社会に拍車かける
厚労省研究会報告
ホワイトカラー 労働時間規制の撤廃
厚生労働省の今後の労働時間制度に関する研究会(座長・諏訪康雄法政大学大学院政策科学研究科教授)は二十五日、一定の要件を設け、ホワイトカラー労働者を八時間労働制の枠外におく制度導入を提案する報告書をまとめました(別項参照)。小泉内閣が財界の意をくんですすめる構造改革・規制緩和は、労働時間規制にまで及ぼうとしています。
労働基準法は、人間らしい生活を保障するために、「一日八時間、一週四十時間」という労働時間の制限を決めています。これを超えた場合には、時間外労働(残業)手当、深夜手当の支払いを義務づけています。
ところが、研究会のまとめた報告は、一定の要件を満たすホワイトカラー労働者について労働時間規制から除外する制度の新設を提案しました。
その理由について報告書は「自律的に働き、かつ労働時間の長短ではなく成果や能力などにより評価されるのがふさわしい労働者のための制度」が必要であるとしています。
■4人に1人危険ゾーン
すでに、実際に働いている時間とは関係なく労資であらかじめきめた労働時間を働いたとみなし、賃金を支払う裁量労働制が導入されています。しかし実態は、長時間労働とサービス残業の温床となっています。労働者から「業務量が過大」「労働時間が長い」と大きな不満があがっていますが、それさえ不十分だというのです。
日本で問題になっているのは、世界でも例のない長時間・過密労働です。そのもとで過労死・過労自殺が多発し、サービス残業(ただ働き)が横行しています。三十代、四十代のホワイトカラー労働者に顕著です。三十代男性の23・8%(二百万人)が週六十時間以上働いています(報告書資料、二〇〇四年)。ここ十年で3・5ポイントも増えています。週六十時間以上の労働は、厚生労働省が「過労死を引き起こす可能性が高い」としている水準です。
ホワイトカラー労働者から八時間労働のルールを取り払うなら、際限のない長時間・過密労働にさらすことになり、過労死社会に拍車をかけることになります。
子育て世代の長時間労働が少子化の大きな要因となっています。必要なのは労働時間の規制緩和ではなく、長時間労働の規制です。
■大企業・財界つよく要請
大企業・財界は、ホワイトカラー労働者から労働時間規制を取り払う(ホワイトカラー・エグゼンプション)ことを強く要請してきました。
財界の総本山である日本経団連(奥田碩会長)が〇五年六月に発表した提言では、年収四百万円以上のホワイトカラー労働者すべてを労働時間規制の適用除外にするよう求めています。
研究会報告は労働時間規制の適用除外となる労働者の要件を大きく三つあげています。厳しい要件を課し、基本要件を法令に定めたうえでとしながらも、「労使の実態に即した協議にもとづく合意により決定することを認めることも考えられる」としています。
労使協議といいますが、実際は、企業側が圧倒的に優位です。労働時間規制という社会の基本的ルールまで、労使協議の建前で企業のやりたい放題にまかせるものといえます。
研究会報告は、厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会の労働条件分科会に提出され、「今後の労働契約法制のあり方についての論議」とあわせて審議、七月をめどに結論を出したいとしています。厚労省はこれをうけ、〇七年の通常国会に関連法案を提出する計画です。
働き方の根本をかえようとする動きにたいし、職場にルールをとの社会的反撃が始まろうとしています。(原田浩一朗)
■研究会報告書のポイント
8時間労働制の適用除外される(新しい自律的な労働時間制度)労働者の適用要件
▽勤務態様要件
(1)職務の遂行や時間配分について、使用者から具体的な指示を受けず、自己の業務量について裁量(自分できめられること)がある労働者。
(2)労働時間の長短が直接、賃金に反映されるものではなく、成果や能力によって賃金が決定されている労働者。
▽本人要件
(1)一定水準以上の年収が確保されている。
(2)本人が同意している。
▽実効性ある健康確保措置が講じられていること。
▽導入にあたって労使の協議にもとづく合意があること。
対象者の具体的イメージ
(1)中堅の幹部候補者で管理監督者の手前に位置するもの。
(2)研究開発部門のプロジェクトチームのリーダー。
法的効果
▽対象労働者は労基法第41条の管理監督者と同じように労働時間および休憩にかんする規定が適用されないとする。深夜業にかんする規定(割増賃金にかんする規定など)も適用を除外する。法定休日については除外しない。