2006年1月21日(土)「しんぶん赤旗」

この現実が見えているのか

首相 施政方針演説

耐震偽装・ライブドア 小泉「改革」ほころび


 「小泉首相よ、この現実を見ているのか」――二十日の施政方針演説を聞いての実感です。「改革」のほころびと破たんを一顧だにせず、外交のゆきづまり状態にも手が打てない、自民党政治のいまを示しています。


■内政

 社会的格差と貧困の広がりを「誤解だ」と一蹴(いっしゅう)する首相。演説では不良債権処理や郵政民営化など、国民に痛みを押しつけ、大企業のもうけにつながる「改革」の成果を並べました。

 ところが、その「改革」がいま、大きなほころびと破たんに直面しています。ライブドアの証券取引法違反事件とその後の株式市場の混乱は、自民党政治が進めてきた規制緩和の結果でもあります。自民党内からも「小泉改革の経済政策から出てきた」と声があがっています。

 そんな同社の堀江貴文社長を「改革の旗手」と持ち上げ、総選挙の「刺客」として協力まであおいだ小泉首相と自民党。しかし、演説は「ライブドア」の「ラ」の字もなし。それどころか、「『貯蓄から投資へ』の流れを進め」と、国民にリスクの大きい投資をいっそう促しているのですから、その無感覚ぶりを疑います。

 耐震強度偽装の問題も他人事です。建築確認という国民の命にかかわる重大な仕事を民間まかせにしてしまった規制緩和を「官から民へ」と加速させてきたのは首相自身ではないか。マンション被害住民をはじめ、多くの国民がこの問題で具体的に何を語るのか注目したはずです。しかし、首相からは「書類の偽造を見抜けなかった検査制度を点検し、再発防止と耐震化の促進に全力を挙げる」との言葉しか聞かれませんでした。

 国民の直面する苦難を徹底して無視する政治がここにあります。「改革の手を緩めてはならない」と訴えた首相の演説に、「勝ち組」政治を掲げて当選した「小泉チルドレン」が盛んに拍手と声援を送った衆院本会議場の場面は、そのことを象徴しています。

 首相は、所得税・住民税の定率減税について「経済情勢を踏まえ廃止する」と宣言しました。来年度予算案に盛り込まれた国民負担増は二・七兆円。今年もすでに決まっている負担増がめじろ押しです(表参照)。首相はそのうえ、消費税の「見直し」を行い本格的な大増税路線の方向も打ち出しました。

 自ら進めた「改革」のほころびと破たんも振り返ることができず、ただ国民にいっそうの痛みを強いる無策、非情の政治です。(高柳幸雄)

■改憲・「靖国」・派兵…

■「理解と信頼」ほど遠く

■外交

 初めて言及した改憲のための国民投票法案、アジア外交、在日米軍再編、イラク派兵…。小泉首相が外交・安保分野で触れた内容は、国民からも、世界からも孤立している課題ばかり。そこからの打開策を示すどころか、いっそう孤立を深める内容でした。

 首相は、国民投票法案について「憲法の定めに沿って整備されるべき」だと制定に向け意欲を示しました。国民投票法案は、九条改憲の条件づくりが狙い。しかし、九条に対する国民の意思は「変えるべきでない」が62%。「九条は平和に役立った」は80%に達しています(「毎日」二〇〇五年十月五日付)。改憲で狙う「海外で戦争できる国づくり」を求める勢力は、国民のなかでは少数派です。

 アジア外交は、みずから繰り返した靖国参拝で行き詰まりに陥り、首相が最重要視する同盟国・米国からも懸念と批判があがっています。にもかかわらず首相がのべたのは「一部の問題で意見や対立があっても、…大局的な視点から協力を強化し、相互理解と信頼に基づいた未来志向の関係を」―。

 しかし、靖国参拝は「一部の問題」ではなく、戦後世界秩序の出発点にかかわる問題。かつて日本が加わった戦争が犯罪的な侵略戦争だったという認識が世界の常識です。靖国参拝は、その戦争を正当化する行動にほかなりません。

 みずから「大局的な視点」のない行動をとり続けながら、中韓両国に行き詰まりの責任をなすりつける首相。これで、どうやってアジア諸国から「理解と信頼」を得られるというのか。

 「大量破壊兵器もなかった。今やっている活動は、イラク住民を雇ってやっているものだ。これが自衛隊がやるべきことか? もう撤退した方がいい」。防衛庁内からも、こんな疑問の声があがる自衛隊のイラク派兵。

 なのに首相は、自衛隊撤退に向けた“出口戦略”を何一つ示すことができませんでした。

 基地を抱える自治体が猛反対している在日米軍再編では「関係自治体や住民の理解と協力が得られるよう、全力を傾注」。基地の強化・恒久化に「もう我慢ならない」と怒る自治体を“説得”するための、政府・与党なりの理屈さえ盛り込むことができませんでした。

 これには、さすがに与党席の拍手もまばらでした。(田中一郎)


■国民を谷に落とし何が「改革」か

 「志士は溝壑(こうがく)に在るを忘れず」――小泉首相が施政方針演説の最後で声を張りあげたのが、幕末の思想家・吉田松陰の言葉を引用したくだりでした。

 もともとは儒教の経典「孟子」にある孔子の言葉で、「志ある人は、その実現のためには、溝や谷に落ちて、しかばねをさらしても構わないと常に覚悟している」の意。首相は、「構造改革」に向けて「全力を尽くす決意」を続けました。

 しかし、小泉首相が四年九カ月の任期中に強行してきた政治とは何だったのか。庶民大増税や社会保障の連続改悪であり、「勝ち組」「負け組」を当然視する経済政策です。社会的格差は広がり、「負け組」に突き落とされた若者やお年寄り、中小零細業者などには、「自己責任」――。「溝や谷に落ちて、しかばねをさらす」ことに追い込まれたのは、ほかでもない国民です。

 その国民に語りかけた言葉は「われわれには、難局に敢然と立ち向かい困難を乗り越える勇気と、危機を飛躍につなげる力がある」というお説教でした。あくまで“自力でやりなさい”というのであれば、一体、政治の役割とは何なのでしょうか。(田)

表

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