2006年1月14日(土)「しんぶん赤旗」
“米軍だから”ですまない
八王子 ひき逃げ
被害児童の両親語る
東京・八王子市で昨年末、米海軍厚木基地(神奈川県)の女性水兵が、ワゴン車を運転して、交差点を渡っていた小学3年生をはね、そのまま逃走した事件−−。被害者の2人の子どもの両親が本紙の取材に応じ、ひき逃げ事件と米軍の対応に対する怒りを次のように語りました。(渡辺浩己)
■信号無視の説明なし
■土屋吉浩さん(41)裕子さん(37)
私たちの一人息子は、昨年十二月二十二日、友だちと横断歩道を渡っているときに米兵が運転するワゴン車にはねられました。米兵は息子たちを助けるでもなくその場から逃げたんです。ひき逃げですよ。
事故を目撃していた人たちの話によると、子どもたちは青信号を渡っていたといいます。なぜそんなことをしたのか。犯人は「公務中」ということで、今も日本側に身柄が引き渡されていません。日米地位協定では、公務中に米兵が事故などを起こした場合、日本側が身柄を確保できないそうですが、釈然としません。私たちはきちんと補償してくれればいいと考えています。でもどうして米兵が事故を起こしたのか。なぜ逃げたのか。ぜひ知りたい。
息子は全治二カ月と診断されました。事故直後は意識も失っていました。鎖骨を骨折し顔面を打撲しました。重傷です。今は歩けるようにもなりました。助かってよかったという思いですが、万一のことを考えたら、本当に許せない。目撃者がいたからいいものの、もしだれも見ていなかったら、どうなっていたかわかりません。
事故の翌日には防衛施設庁が謝罪や補償のことについて話しにきました。最初はなぜ防衛施設庁がくるのかよくわからなかったのですが、補償の大半を日本が負担するんですね。犯人は事故から二日たった二十四日に謝罪にきました。上官、通訳と一緒でした。“厚木基地から横田基地に行く途中で、急いでいた”といっていました。謝罪はしましたが、どうして信号を無視したのか、説明はなかったですね。
相手は米兵でしょう。保険にはいっているかもわからない。相手がアメリカに帰ってしまうことなんてないんでしょうか。せめて事故の補償はきちんとしてもらいたい。
■逮捕されずおかしい
■大成信也さん(40)順子さん(40)
私たちの息子も米兵が運転する車にはねられ、飛ばされました。左側頭部と胸部打撲、左足首外傷です。事故直後、救急車のタンカに横たわった息子は意識もあまりはっきりしませんでした。
事故の翌日には防衛施設庁がきて医療費や補償のことについて話をしました。「米兵が公務中だった」ということで、防衛施設庁などが支払うことになるそうです。支払いは半年先といっていました。それまでは自己負担になるわけですが、これってどうなんでしょうか。
ひき逃げした米兵が謝罪に訪れたのは事故から二日後です。上司と一緒でした。でもひき逃げ犯が逮捕もされず“釈放”されていること自体がおかしいじゃないですか。私たちは、「どうして横断歩道を渡っている子どもをはねたのか、何で逃げたのか」と詰めよりました。米兵の言い分は「信号は黄色だった」「事故を起こしてパニックに陥った」というものでした。だからといってその場で停止しないで、子どもをそのまま放置して警察にも連絡せず、軍に報告するとは何事かといいたい。
米軍は「公務」といいますが、車の移動中の事故ですよ。車による事故は交通事故として処罰がきちんと下されるべきでしょう。公務といえば米兵は逮捕もされない、日本の法律が届かない。それを決めている地位協定は差別協定じゃないですか。
子どもたちにどう説明しますか。“米軍だから仕方ない”ですまされますか。到底納得できません。
私は基地があることに百パーセント反対ではありません。しかし日本に米軍基地がなければ、こんな事故も起きないわけですから、せめて日本の法律にもとづいてきちんと裁いてほしい。そして差別的な地位協定を廃止してほしい、というのが私たちの願いです。