2006年1月12日(木)「しんぶん赤旗」
熊谷組株主訴訟
「献金は違法」を覆す
名古屋高裁 企業の主張を容認
準大手ゼネコン熊谷組(本社東京)の個人株主が、経営状態が逼迫(ひっぱく)しているのに政治献金したのは違法などとして、元社長らに約九千九百万円の会社への返還などを求めた株主代表訴訟の控訴審判決が十一日、名古屋高裁金沢支部でありました。長門栄吉裁判長は、当時の経済環境や献金額などに照らし「(献金は)合理的な範囲内にある」と判断、元社長の注意義務違反を認めた一審判決を変更し、原告側の請求をすべて退けました。
一審福井地裁は「経営状況と寄付の有用性を厳格に検討しなかった」と、松本良夫元社長に約二千八百六十万円の支払いを命じていました。
長門裁判長は企業献金に関し、会社の規模や経営実績、相手方などを考慮し、合理的範囲を超えた場合、取締役の注意義務違反になるとの基準を示しました。そのうえで、熊谷組の売上高や献金額、政治資金規正法の限度額などを検討。「不相応な寄付とはいえない」と結論づけました。また、「献金に応じないとすれば、激しい受注競争のなかで信用不安情報として同社に不利に働く恐れがあった」と被告側主張を受け入れました。
一審判決は、企業献金について、「特定の政党、政治団体に集中すると、当該政党のみが資金力を増大させ、国の政策にも決定的な影響力を及ぼすことになって、過去に繰り返された政界と産業界との不正常な癒着を招く温床ともなりかねない」と指摘。「謙抑的でなければならない」と画期的な判断を示していました。
■司法の立場を放棄 原告ら会見
「失望と怒りを禁じ得ない」―。熊谷組株主代表訴訟で敗訴した原告の株主、柚岡一禎(ゆおか・かずよし)さんらは十一日、金沢市内で記者会見。松丸正弁護団長は「特別損失を計上するなどの経営状況の中、会社が献金を続けたことに目をつぶる判決だ」と、名古屋高裁金沢支部判決を強く批判しました。
原告側は訴訟で、企業の政治献金自体の危うさを問題としてきました。
「与党への巨額の献金は、政府の政策を左右する危険性がある」。政界と産業界との癒着を招く温床にもなりかねないとして、献金自体の差し止めも求めてきました。
一方で、控訴審判決は「献金は政党の健全な発展に協力する趣旨で行われる」と、献金の社会的な役割を認めました。弁護団は「財界は社会貢献だと言っているが、それをそのままの形で取り入れた。司法として企業献金を改革する立場を放棄した判決」と失望感をあらわにしました。
「最高裁で一審以上の判決を勝ち取る努力をしたい」と、弁護団は上告を明言しました。