2006年1月11日(水)「しんぶん赤旗」

2006世界の表情

民営化破たんで再公営化

鉄道・水道

イギリス


写真

(写真)ロンドンのビクトリア駅で出発を待つ公営のサウス・イースタン・トレインズの電車

 サッチャー政権期(一九七九―九〇年)から国営企業の民営化を広く進めてきた英国。そこで今、目先の利益のみを追求する民営化の問題点を改め、再公営化や非営利企業により公益を重視する試みが始まっています。

 「私企業の方が公営より効率的だというのは神話にすぎない」。鉄道海運運輸労組(RMT=組合員約七万人)は訴えます。同労組は、鉄道民営化によってサービスの面でも安全性の面でも質が低下したと批判します。民営化の否定的影響が最も顕著な形で現れているのが鉄道。これを修正する動きも進んでいます。

■利益優先で事故

 メージャー保守党政権は九三年、鉄道の完全民営化を法制化。鉄道施設保有会社や鉄道運行会社などの業務別や、地域別に、細分化しました。民営化された企業は短期的利益のみを優先し、鉄道の公共性を無視しました。

 こうした利益優先が招いたのが事故の続発です。九九年十月には、ロンドンのパディントン駅近くで赤信号を無視した列車が特急と正面衝突し、三十一人が死亡。二〇〇〇年十月にはロンドン北のハットフィールド近くで列車走行中にレールが破損して脱線。四人が死亡、七十人が負傷しました。

 パディントンの事故では、過去に八度も同じ信号で赤信号通過が起きていたにもかかわらず、信号設備は改善されていませんでした。ハットフィールドの事故では線路補修を十分にしていなかったことが原因の一つに挙げられました。

 鉄道施設を所有、管理するレールトラック社が責任を問われました。同社は、施設の補修を下請け任せにし、短期の利益につながらない鉄道の施設や機能の維持、向上のための投資を怠ってきました。

 あまりの怠慢ぶりに、政府は同社への支援を打ち切り、別組織に改組すると決定。〇二年十月には、政府が立ち上げた非営利企業ネットワークレール社に買収されました。新会社は、利益を施設の向上などに投資すると宣言。〇三年十月には軌道補修業務の外注をやめると発表しました。

 同社は〇五年五月に同年三月末までの一年間の業績を発表。▽業務利益が前年度の赤字から黒字に転換した▽線路が原因の列車の遅延が前年比17%減った―と発表しました。民営化の破たんの修正は成果を上げています。

 九六年の民営化でロンドン南東部の鉄道運行権を獲得したコネックス社は、運行の乱れを放置した上、財政危機に陥り、権利をはく奪され、〇三年十一月、公営の「サウス・イースタン・トレインズ」となりました。

■国民世論も支持

 民営化による弊害を修正する動きは鉄道以外でも起こっています。ウェールズでは、米国企業に買収された水道事業を〇一年五月、非営利企業のグラス・カムリが買収。利益を水質改善や下水施設向上のための投資に回したり住民に還元して、歓迎されています。

 逆流もあります。政府は昨年十一月末、サウス・イースタン・トレインズの運行権を今年四月から民間のゴビア社に委託すると発表。再民営化しようとしています。

 とはいえ、RMTが昨年初めに紹介した世論調査では、国民の65―72%が鉄道の再国営化を支持。民営化を手放しで称賛する風潮は、もはや英国にはありません。

 「九〇年代初めから半ばにかけて民営化されたとき、英国鉄道の役割は民間企業に任せられた。ハットフィールド事故が分岐点となり、全国の線路の状態のひどさや補修がいいかげんにされてきたことが明らかになり、まったく新しい問題が問われた。いま私たちはまったく逆戻りした」―BBC放送のモンタギュー記者は指摘します。(ロンドン=岡崎衆史 写真も)


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