2006年1月9日(月)「しんぶん赤旗」

鼓動

ヤクルト・石井のポスティング問題

制度そのものに対立要因


 「なぜ交わした約束が守れないのか。法的措置も検討します」

 ポスティングシステムを利用した大リーグ移籍を希望するヤクルトの石井弘寿投手(28)が6日、球団側と交わした約束の効力を問うため、法的手段も辞さない構えを見せました。

 今回の問題は、球団側が昨年オフの契約更改時、「シーズンにわたってフルに活躍すること」を条件に、移籍を認めるとした口約束を守らなかったことにあります。今オフの交渉で球団側は当初「約束はない」と言っていました。しかし、その後、約束があったことは認めながら「事情が変わった」と移籍を拒否。昨年、石井投手の代理人を務めた弁護士は「約束を記したメモもある。かりに口頭でも守らなければ義務違反と考えられる」と主張しています。

 これはお互いの信義にかかわることです。「これを励みに1年間やってきた」という石井投手の落胆と球団への不信感は、相当なものでしょう。

 この間、西武の松坂大輔投手や阪神の井川慶投手など、この制度での移籍を要望する選手と、球団間での対立が起きています。その最大の要因は、球団側が認めなければ、いくら選手が望んでも移籍できないというポスティングシステムの性質にあります。

 日本のプロ野球選手が大リーグに移籍するには、自由契約になるか、この制度を利用するか、それともFA権取得まで待つかのいずれかです。しかしFA権取得には9年間の一軍登録が必要。高卒で1年目から巨人の一軍にいた松井秀喜選手(ヤンキース)でさえ、28歳での取得でした。

 労組・日本プロ野球選手会の宮本慎也会長は、「若いうちに力を試したいという選手からすれば、システムがあるなら行きたいというのも普通の考え」といいます。

 また球団側にしてみれば、選手の入団時に高い契約金など、多くの資金をつぎ込んでいます。そのため早い時期や脂がのってきたときに移籍を希望すれば、「わがままだ」「もっと貢献してからだ」などということになるのでしょう。

 しかし、大リーグへの挑戦は、「個人の夢」だけでは終わりません。日本人選手の活躍によって野球人気が復活したり、戻ってきた選手が経験を生かし、活躍するなど、球界に新しい風を吹き込んできました。

 また、今後も大リーグへの移籍を阻むような状況が続けば、日本球界を経ずに、大リーグ挑戦をする選手が増える可能性もあります。日本球界の空洞化を避けるためにも制度の整備が早急に求められています。

 FA権取得年数を短くすること、あわせて戦力均衡のためにドラフトをウエーバー制にするなど、根本的な改革が必要でしょう。(栗原千鶴)

 ▼ポスティングシステム FA(フリーエージェント)資格がない日本のプロ野球選手が米大リーグに移籍する際の制度で、1998年に日米選手契約協定で定められました。日本の所属球団が認めた、移籍可能選手を大リーグに通知し、獲得を希望する大リーグ球団のうち最高額で移籍金を入札した球団に独占交渉権が与えられます。適用期間は11月1日から翌年の3月1日まで。選手が1球団としか交渉できず不利な条件を押し付けられる可能性もあるなどとして、労組・日本プロ野球選手会は、廃止を求めています。


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