2006年1月8日(日)「しんぶん赤旗」
どうみる国民投票法案
笠井亮衆院議員にきく(下)
“ハードル低く”に執念
今回、憲法調査特別委員としてヨーロッパに調査(二〇〇五年十一月)に行き感じていることは、各国がそれぞれ歴史の苦い教訓を忘れておらず、国民投票制度を慎重に扱っていることです。
オーストリアでは第二次大戦の前にナチスによるドイツとの併合問題で国民投票が行われ、ヒトラーのデマ宣伝と強引な手法の結果、99%の賛成で併合が決まりました。
フランスの場合は、戦後ドゴール大統領が人気投票的な国民投票を乱発し大統領権限の強化に利用しました。
スペインでは内戦があり国が二分された経験から、国民投票実施にあたって「国民合意があるかどうか」を非常に大切にしていると語っていました。
また、各国は「国の基本的価値」を非常に大事にしていて、人権など基本的な価値を変えてしまうような憲法改正はそもそも想定していないのです。
日本国憲法でいえば、最大の基本的価値である九条や前文の平和主義をひっくり返す「改正」はありえないと強く感じました。
■改憲に得か損か
九条を守ろうという国民の世論は根強いものがあります。「毎日」の世論調査(〇五年十月五日付)でも、62%の人が九条改定に反対です。改憲派は、この世論をどうやってひっくり返し改憲賛成にもっていくか、投票方法でもいかに可決されやすい方向にするか、国民の中の最小限の賛成で、国民投票の過半数を得る仕組みをつくろうとしています。
そのために、一つは国民投票のハードルを低くすることに執念を持っています。憲法九六条は、改定には国民投票で「過半数の賛成を必要とする」と定めていますが、過半数をどうするかは、「有権者の過半数」や「投票総数の過半数」などさまざまな意見があります。自民党はもっともハードルの低い「有効投票の過半数」と主張しています。
投票権者の年齢について、自民党は二十歳以上を主張しています。十八歳以上がいいのか二十歳以上がいいのか、九条改憲にとってどちらが得かで考えています。
■言論規制の危険
国民投票法案のもう一つの大きな問題点は、マスメディアへの規制と国民の運動への規制です。
自民党は「国民投票運動は自由」といいますが、公職選挙法程度の規制は必要だとしています。戸別訪問は禁止ですし、「地位利用」にあたるとして公務員や教育者は運動できません。マスコミの「虚偽報道」は規制すると主張してきました。
しかし、何をもって「地位利用」とするのか非常にあいまいです。例えば、憲法学者が授業で憲法について「この憲法は大切だ。守ろう」と話したらそれは法に触れてしまうことになります。
誰が何をもって「虚偽報道」と判断するのか、非常に恣意(しい)的に運用される危険があります。
ヨーロッパで調査すると、どこの国で質問しても「メディアや運動規制はありえない」との答えが返ってきました。戸別訪問も自由です。
ただし、テレビやラジオでは公正中立を貫くように、フランスなどでは賛成派と反対派の発言時間が対等になるように独立機関がチェックしています。
日本では、ビラ配布弾圧事件などが現実に起きており、自民党の中には「規制には罰則が必要」と発言する議員もいます。国民からの批判もありメディア規制をやめるとの動きも伝えられますが、国民の言論・表現の自由が規制される危険を見逃すことはできません。
■狙いを知らせて
今後のたたかいは、九条改悪の条件づくりという国民投票法案の狙いを国民に知らせていくことだと思います。改憲勢力の側も国民過半数の世論結集を正面に据えてやってきています。
九条守れの強固な世論と運動、過半数の国民の意思をどれだけ早く作り上げるかです。「九条の会」が四千を突破し全国に広がっているのは素晴らしいことです。
私たち日本共産党の国会議員団も国民の広範なたたかいと心を一つにして、憲法改悪反対の国民多数派結集に向け頑張る決意です。(おわり)