2006年1月7日(土)「しんぶん赤旗」
耐震偽装
「私たちは犯罪の被害者です」
愛知・半田市 ホテル社長の中川さん怒る
姉歯秀次元一級建築士による耐震偽装事件で耐震強度が0・42しかないことがわかった愛知県半田市のビジネスホテル「センターワンホテル半田」。建物を解体して今秋の営業再開をめざすホテル側は、構造計算書の偽造を建築確認で見逃したとして愛知県などを提訴する方針です。(唐沢俊治)
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■見逃した県など提訴へ
「私たちに過失や落ち度は一切ない。犯罪行為の被害者です。救済措置がないのはおかしい」。解体のため搬出用にこん包した、いすを山積みした一室で、中川三郎社長(49)は怒りを抑えながら話します。
もともと金属加工業を営んでいた中川さんは半田駅前再開発にからみ、「人の流れができ活性化になる」と二〇〇二年、ホテル経営に事業転換しました。〇五年の稼働率は“愛知万博特需”以降も増え、十月は82%、十一月84%。「やっとホテルが認知され、『さあ、これから行くぞ』というときに姉歯ですよ」
■総研を信じて
中川さんは二〇〇一年に地元建設業者を通じて総研の内河健氏に会いました。内河氏は、「私どもにお任せしていただければ、設計建築から、ホテルまで全てコンサルタントいたします」と分厚い市場調査書と事業計画書を出しました。
総研がコンサルタントし手がけた物件を、内河所長自らが中川さんを案内しました。「総研は当時、すでに二百棟のホテルを建てていました。ほかより建設期間が六カ月も短い。金額も二億円くらい安かった。こちらは素人ですから、それだけ成功しているのはすごいと思いますよ」と中川さん。
「ホテル建設から経営コンサルタントまで、総研を信じてすべてを任せていました。設計も、総研が指定した平成設計がすべてを行っているものと思っていましたよ。姉歯がかかわっているとは、思いもしませんでした」
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■解雇の悔しさ
同ホテルは耐震偽造の疑いが明らかになった十二月二日から自主的に営業を中止。独自に複数の設計事務所に構造計算の再計算を依頼しました。
その結果、計算書と設計図を比較すると偽装が判断できることが分かりました。
しかし、建築確認した愛知県は十二月四日、「偽造を見破られないよう周到に工作した結果」として県に過失はないと発表。また同月二十八日にホテルを訪れた県職員は、「総研や平成設計と契約したのはホテル側であり愛知県に責任はない」と述べました。
一日あたり約六十万円の損失が生じることから中川さんは全従業員十人を一月末でいったん解雇することになりました。「ホテルは働く人によって変わるんですよ。三年かけて指導してきた従業員は、私どもの生命線です」と悔しさをにじませました。
■検査員の削減
中川さんは「検査機関である愛知県が建築確認した事項に関して、『県に責任がない』というのは、納得いかないですよ。建築主の自己責任というなら、図面が読めて構造計算ができないと建物は建てられないということか。確認申請の本来の意味がなくなる」と指摘します。
一九九九年度から民間の指定確認検査機関が建築確認業務をおこなうようになり、九八年に七十人だった愛知県の建築確認を行う技術職員は、昨年度六十三人に減少しました。
中川さんは「共産党さんは建築確認業務を民営化する建築基準法改正の時に反対してましたよね。検査員の削減で、いいかげんな審査になるのではないかと。指摘したことがズバリ当たったということですよ」。
中川さんは、ホテル休業などの損失額が確定次第、愛知県などを提訴する方針です。「独自のノウハウで客室に投資してきた建物です。それを私自身の決断で解体する気持ちをわかっていただきたい。愛知県は責任を認め、申し訳なかったと一言でもいってほしい」