2006年1月6日(金)「しんぶん赤旗」

過労死 なぜ認められないの

残業「月80時間」で“足切り”

認定基準、実態とかい離


 「時間外労働が認定基準の月八十時間に欠けるというだけでなぜ労災じゃないのか」―。過労死で肉親を亡くした遺族からそんな声が上がっています。労災申請したものの、納得のできない理由で棄却され、各地で審査請求や行政訴訟が増加しています。

■遺族、悲痛の訴え

 「夫は十カ月半で五カ国九回、延べ百二十日も海外出張していた。死因は明らか。

 夫をくも膜下出血で亡くした長野県の女性は、涙ながらに訴えました。昨年十一月に行われた全国過労死を考える家族の会と厚生労働省との交渉の席上のことです。女性は労災申請を棄却され、長野地裁に行政訴訟を起こしています。

 現在、脳・心臓疾患にかかわる過労死認定基準は、時間外労働が「発症前一カ月で百時間」か「発症前二―六カ月間にわたって一カ月当たり八十時間」を超える場合は、業務と発症の関連性が強いと判断されます。

 過労死弁護団全国連絡会議事務局長の玉木一成弁護士によると、月七十六、七時間残業していても、認定基準の八十時間に達していないと過重ではないとして認定されないといいます。

 「形式的な運用がまかり通っている。八十時間に達していないと、深夜勤務や不規則勤務、時差労働など、認定基準の他の過重負荷要素がある場合でも、実際はほとんど考慮されない。総合的な判断が望まれる」

■過重負荷は無視

 長野県の女性が訴えたケースでは、時間外労働は月六十五時間だったという理由で棄却され、海外出張(時差労働)による過重負荷は評価されていません。

 また、夫を心臓疾患で亡くした愛知県の女性も「夫は正規の業務以外に、職場のQCサークルのリーダーや新人教育係担当、組合の職場委員もしていたが、労基署はそれらの業務の労働時間をカウントしていない」と訴えました。

 過労死弁護団の調べによると、このほかにも評価対象の業務を発症前六カ月に限定し、発症八カ月前に百時間を超える時間外労働をしていてもそれを評価しなかったり、長距離通勤による負担も一切考慮しない姿勢をとったりしています。

 一方、精神障害・過労自殺の労災認定件数は増えているものの、労災申請数の急増にともなって認定されないケースが多数出ています。認否の判断指針となっている心理的負荷評価表が形式的かつ恣意(しい)的に適用され、認定されないケースが目立ちます。

 「十分な新人研修を受けることなくプログラム開発業務に従事し、うつ病になり自殺した。しかし、労基署はストレス強度は弱かったと判断し、労災を認めなかった。納得できない」。システムエンジニアだった息子をわずか入社半年で亡くした母親は、声を震わせて訴えました。

■ストレス評価も

 過労自殺の認否は、心理的負荷評価表にもとづいて判断されます。ストレス強度はI(軽度)、II(中度)、III(強度)に区分され、いずれの区分の“出来事”に遭遇したかでストレス強度が判断されます。

 母親が訴えたケースでは、最もストレス度の低い「I」に区分される「職場のOA化が進んだ」の項目に適用され、ストレスに日々さらされた業務内容はほとんど考慮されていません。

 「負荷評価表は“出来事主義”になっている。慢性ストレスについての評価が欠落している。これも負荷評価表に形式的にあてはめ、認定されないケースが多い」と玉木弁護士。また、精神疾患発症後に職場復帰し、悪化して自殺した場合、労災認定されにくくなる現状があります。業務より個別要因に帰せられるケースが多いといいます。

 夫を心筋梗塞(こうそく)で亡くした大阪府の女性は、「労災申請を棄却された労基署で『犯罪者の妻の証言が信用できないように、あなたのいうことは信じられない』と面と向かっていわれた。しかし、一番そばにいたのは家族です。夫は『疲れた、疲れた』といって亡くなりました。家族の記憶を信じてください」と訴えました。


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