2006年1月6日(金)「しんぶん赤旗」
医療従事者 4月から一部派遣解禁
チームワークとれず医療ミスの危険高く
国の責任で養成・勤務改善を
厚生労働省は、労働者派遣法が禁止する医師や看護師など医療関係業務への派遣を一部解禁することを年末に決め、四月一日から施行するとしています。
■「医師の不足」
医療業務全般を解禁するのは、職員の出産・育児・介護休暇で代替要員が必要な場合。離島や過疎地などへき地には、医師の労働者派遣を認める内容です。理由として、代替要員については「ニーズがある」とし、へき地への医師派遣は「医師の不足」をあげています。
昨年十二月末の労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会で確認されており、今月中に分科会・審議会での了承を経て、政令「改正」されることになります。
政府が構造改革特別区域推進本部で決定した対応方針(昨年十月二十一日)にそったもので、二〇〇五年度中に医療関係業務の派遣解禁を決定するよう求めていました。
医療関係業務の派遣は全面的に禁止されていましたが、〇三年三月末以降、病院・診療所以外(社会福祉施設等)で例外的に認められ、〇四年三月からは紹介予定派遣(注)に限り解禁しています。
これまで医療関係業務が労働者派遣の原則禁止の対象だったのには訳があります。患者の命を直接あずかる同業務は、スタッフによるチーム医療が要です。雇用が不安定で雇用責任も派遣会社が負う労働者派遣では、コミュニケーション不足から医療ミスにつながる恐れがあり、責任の所在もあいまいになります。〇三年春までは厚生労働省もこれらの理由をあげて「派遣制度そのものになじまない」と主張、解禁に強く反対していました。
■財界から圧力
ところが、厚労省は〇三年六月以降、労働者を事前に特定できる紹介予定派遣ならば「導入しても差し支えない」と容認へ態度を一転させます。
背景には、小泉内閣が構造改革路線を推進させるため設置した総合規制改革会議(当時、宮内義彦議長・オリックス会長)でのどう喝ともいえる圧力がありました。議事録によると、同会議委員らは厚労省担当課長をよびつけ、政府が閣議決定したことを盾に「粛々とこれ(派遣解禁)を実現するということのみが厚生労働省に課せられた責務。議論する必要もない話だ。結論は決まっているという認識はあるのか」などとまくしたて、解禁を容認させました。
医療機関の株式会社経営参入を求める日本経団連は、医療関係業務に派遣を全面解禁するよう、毎年要求しています。今回の動きもこの財界要望にこたえた一環です。
■補充は正規で
日本医労連の田中千恵子委員長の話 代替要員であっても「医業への派遣はなじまない」ことに変わりはなく、解禁には反対です。現在でも恒常的な人手不足と過密労働により、患者の命と安全が脅かされ、職員にとって働き続けられない職場となっています。代替補充は正規職員でおこなうべきです。
派遣を認めれば、常態化することは明らかで、安全・安心に影響することは必至です。女性看護職員が多数を占める医療職場では、欠員なく産前産後・育児・介護休暇が取得できる体制を確保することが、医療の安全、さらに離職防止につながります。
医師についても同様で、へき地の医師不足を解消するには、国が責任をもって医師を養成し労働条件を改善したうえで配置することがもとめられています。
■紹介予定派遣
「臨時的、一時的」な仕事を対象に、派遣会社が雇用する労働者を企業などに貸し出すしくみが労働者派遣です。実際に指揮命令する派遣先企業は雇用責任を負わずに済むため、労働者派遣法は企業が労働者を特定する行為を禁止してきました。労働力の提供を受ける場合だけ認められており、労働者を特定したければ企業が直接雇用すべきであるというのが、法の精神です。
ところが、二〇〇三年の法改悪で制度化された紹介予定派遣は、派遣として働かせたのちに企業が労働者を直接雇用することを前提に、事前面接など労働者を特定する行為を認めました(同一派遣労働者の派遣期間は六カ月以内)。直接雇用を実現するというのが理由です。しかし、直接雇用に拘束力はなく、派遣先企業の一方的な都合で解消できます。雇用責任は負わずに労働者を選びたいという企業の使い勝手を優先した制度です。