2006年1月3日(火)「しんぶん赤旗」

町がさびれていく

「構造改革」の現場から―2


 「平成の大合併」で、ことし三月末の市町村数は千八百二十一になります。一九九九年時点は三千二百余で、減少率44%です。「構造改革」のもとすすめられる合併で暮らしはどう変わったのか。減少率全国五番目、消えた町村でいえば全国で最も多い七十七を数える新潟県を歩きました。(立花亮)

■市町村合併

 「町はどんどんさびれていく。合併して役場までなくなってしまった。息子は本州で働いていますが、戻ってきて店を継いでほしい、とはとても言えません」

 佐渡島の旧相川町役場近くで日用品店を営む男性店主(71)は嘆きます。

 佐渡島は、東京二十三区の一・五倍もの面積をもつ自然豊かな島です。島内の十市町村が合併して〇四年三月、佐渡市(人口六万九千人)が誕生しました。

 かつて佐渡金山や佐渡おけさなどを楽しむ観光客でにぎわったという同島北東にある旧相川町。海岸線では波が岩にぶつかり、泡となって浮き上がる「波の花」が雪にまじって吹きつけます。

 シャッターを下ろす店が目立つ商店街。全国に広がる地方の風景がここにもありました。合併で街の核がなくなり、さらに追い打ちをかけています。

 「活力あるまちづくり」をかかげて発足した佐渡市。しかし発足直後からゆきづまります。合併前の合併協議会で作成した財政計画がいきなり破たんしたのです。〇五年度予算は五百七十九億円の見込みでしたが、実際に組まれた予算は四百九十七億円と、15%も歳入が減少しました。小泉内閣の「三位一体改革」にともなう地方交付金・補助金減額が大きな原因です。市は財政計画の再検討に追われています。

 合併協議会の会長を務めた小田初太郎さん(75)=元畑野町長=は語気を強めます。

 「私は合併は絶対に必要だという立場です。しかし、今の国からの予算配分で地方自治を行えといわれても、とてもやっていけません。国の『三位一体改革』によって地方への予算がこれほど減らされるとは予想できませんでした。国は地方自治体が運営できるよう責任を持つべきです」

 昨年九月、市が小中学校数を半減させる案を検討していることが明るみに出ました。小学校を三十六校から十六校に、中学校を十六校から九校にする方針です。住民に不安が高まっています。

 山あいの集落でパン屋を営む小林亮子さん(53)もその一人です。自然の豊かさと四人の子どもの教育環境を考えて十三年前に佐渡に移住してきました。いま息子(12)が小学校に通っています。

 「町にとって学校は、地域と一緒に運動会や文化祭をするなど、地域の中心的な存在です。学校が無くなると町まで無くなるようで、さみしい」と訴えます。

 一方、佐渡の対岸の上越市(人口二十一万一千人)。昨年一月、十三町村が上越市に編入合併しました。ここで、全国で初めて地域協議会の委員を住民による選挙で選出する準公選制のもと、地域住民の声を行政に生かすとりくみが始まっています。

■準公選制で地域協つくる

■子育て・ごみ・防災…住民の期待

表

 昨年末、十二月としては記録的な大雪に見舞われた上越市。合併後の面積は旧上越市の四倍となりました。

 法定合併協議会で、旧上越市を除く十三町村に地域自治区と地域協議会の設置が提案され、日本共産党市議団(杉本敏宏団長、三人)も推進してきました。自治区ごとに地域協議会をつくり、その委員は公職選挙法に準拠して、地域住民による選挙をへて選任されます。

 準公選制で住民の要望をより市政に反映できるようになり協議会の権限もつよくなること、いわゆる“地域ボス”の支配というかたちはなくなり利権を生まない構造にできるなどの利点があります。

■各区ごとに組織

 同協議会は各区ごとの住民の要望を行政に生かすための組織です。

 各協議会から▽子育て支援について▽ごみ袋の改善▽携帯電話の非通話地域解消について▽防災無線の改良―など、さまざまな要望が市に出されています。

 大潟区(旧大潟町)は、「大潟海岸の浸食対策と護岸の整備」や「海岸の保安林の松の立ち枯れ対策」を求める意見書を上げるなど活発に活動しています。

 上越火力発電所の電源立地地域対策交付金の対象となっていた旧町村への交付金は合併後も各区に交付され、大潟区もその一つです。大潟区地域協議会は昨年四月、その交付金の使途について地域協議会の意見を反映させることを求める意見書をあげ、市は同協議会の意見を聞いた上で使途を決めることになりました。

 旧大潟町の元町議で同町自民党支部幹事長を務めた久保田一雄さん(69)も地域協議会の委員です。久保田さんは、もともと上越市への合併には住民にとってメリットが少ないとして、反対でした。

 保守陣営からのさまざまな圧力もありましたが、合併反対を貫きました。しかし、町議会は小差で合併を決定。合併後、久保田さんは立候補して協議会委員に選ばれました。「役場もなくなり、地域経済や行政サービスの中で問題がでてきています。住民の思いを聞き、合併して出てくる問題を解消するために力を尽くしたい」と語ります。

■共産党の力発揮

 日本共産党の元牧村村議の渡辺靖子さん(66)も住民の意見を協議会で訴えています。「地域協議会はまだ発展段階です。これから住民の意見を行政に届けて、信頼をかちとっていかないといけないと思います。住民のくらしを守る共産党の役割を協議会の委員としても発揮していきたい」と話します。

 合併後によりよい自治をどう築いていくか、住民サイドから模索する動きもあります。

 昨年八月、上越市の自治問題について考える「くびき野地域問題研究会」(会長は元三和村村長の関口荘六氏)が発足しました。自治区や地域協議会のあり方など市内の自治について考えるシンポジウムを開いています。

 同会の上野公悦事務局長(57)=元日本共産党頸城村議=は、「準公選制の地域協議会は五年間が期限になっていますが、恒久的に運営することが必要だと思います。住民本位のまちづくりを研究して行政に提言していきたい」と強調します。

 市に自治区や協議会の運営について提案してきた日本共産党の杉本市議はいいます。

 「今後、旧上越市の地域でも、自治区・地域協議会を設置して、恒久的な自治組織としていくことが必要です。それぞれの地域協議会がさらに住民の意見を反映させることができるように議会で訴えていきたい」

 ▼上越市の地域自治区 地域住民の意見を行政に反映させることや住民と行政の連携を強化することを目的として旧町村に設置(旧上越市は除く)。設置期限は五年間です。自治区では旧町村役場を総合事務所として活用。住民の意見を取りまとめる地域協議会は、その地域で行われる事業などに関して市に答申することと、地域の要望を決議して、市長に意見書を出すことができます。地域協議会の委員を公職選挙法に準じて選挙を行い、選ばれた委員を市長が任命する方式です。委員数は、ほとんどの自治区で旧町村議会の定数にもとづいています。


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