2006年1月1日(日)「しんぶん赤旗」
“九条って何ですか”から…
党と出会い新しい人生 人のために動く喜びも
2006人間ドキュメント明日をひらく
名古屋市の青年支部 佐原拓馬さん(21)
「今までと違う人生が始まった」。人懐こく屈託のない笑顔で語るのは、名古屋市の佐原拓馬さん(21)です。日本共産党名古屋東・北・西・中地区委員会の青年支部に所属しています。
佐原さんは「イラク戦争が始まったことも知らなかった」青年でした。日本共産党と出会ったのは、昨年九月の総選挙のさなか。民青同盟と党青年支部の合同宣伝中に、たまたま通りかかったのです。
サラリーマン増税反対のボードを手にしたメンバーから「これ知ってる?」と声をかけられ、「それって何ですか?」。「年収二百万円くらいなら、九万円も増税になるんだよ」との説明に、「えっ、それは困る…」。そして「一つ聞いていいですか。憲法九条って何ですか」と質問しました。仕事現場で宣伝カーから聞こえた「サラリーマン増税反対」「憲法九条守れ」との訴えが耳に残っていたといいます。
メンバーの説明を聞いて、「そんなことになっとんのか」と驚きました。「知らんでいいこと、悪いことあるけど、こんな大きなこと知らんのはいかんよな」。その場で民青同盟に加入し、翌日から仕事帰りに、連日事務所にきて選挙の手伝いに精を出し、選挙後入党しました。
■母の借金返済し
党と出会った時、佐原さんは大変な状態におかれていました。一緒に暮らしていた母が、ヤミ金やサラ金十五―十六社から総額三百万円の借金を残して姿を消し、返済に追われていたのです。彼名義でも約八十万円の借金があります。母はパチンコ依存症でした。
高校卒業後、就職した板金屋で朝七時から夜八時近くまで、金属粉と汗にまみれ働いて得た賃金は、借金返済に苦しむ母に全額渡していました。それでもパチンコがやめられず、借金を重ねた母。返済に行き詰まった母は昨年春に自殺をはかり、一命を取り留めたものの姿を消しました。「拓、ごめんなさい」との置き手紙を残して。
以来、家にも勤務先にも借金取りが押しかけ、賃金のほとんどを吸い取られていました。電気・ガスは止められ、夕飯を食べられずに寝た時期も。高校時代八十キロあった体重は、みるみる減っていきました。
出会った時の佐原さんを「焼け野原から出てきたようだった」と話すのは党地区委員会常任委員の石田進さん。「そこまで追い詰められると、人間は精神的に荒れがでてくるものだけど、彼にはそれが見えなかった。目がイキイキしていて、興味・関心が鋭く学んだことをどんどん吸収していく力をもっている」と。
佐原さんの境遇を知った支部のメンバーは、銭湯や食事に連れて行ったり、米や野菜を届けて生活を支援。母名義の借金は彼に返済義務がなく、ヤミ金には一切応じてはいけないことを伝えました。弁護士による法律無料相談や被害者の会にも一緒に出かけました。取り立て屋が来たときは、複数で救出に行ったことも。メンバーの一人で、民青同盟の地区委員長でもある工藤健次郎さん(30)はいいます。「助けてやろうとかでなく、支えようって気持ちが自然とわいてきたんです」
「人に優しくされたことがないから、どう受け止めたらいいかわからない」。佐原さんは、ある日メンバーの前で泣き出しました。
「これまで生きてきていろいろな人に出会ったけれど、ここには全く別の優しさがある。厳しいこともいわれるけど、心の優しさがある」と感じたからです。
「今はみんなに世話になりっぱなしなので、早く自立して、今度は人のために動ける喜びをつかみたい」とつよく願っています。
■養父との会話が
特に関心をもっているのは、憲法九条を守る運動を広げることと、青年ユニオンを地域につくることです。「今まで僕は物事を知らんかった。知ったら動きたい気持ちがすごく出てきた。憲法九条二項がなくなるとどうなるのか、重大な中身が伝わればだれでも考えが変わると思う。働く権利も同じじゃないかな。中高生むけにわかりやすい冊子を作って配りたい」
子どもの虐待や殺害される事件を聞くと、「怒りと悲しさで夜眠れなくなる」ことがあります。今は会えない二人の妹のことが重なるからです。
彼が中学生の時から風呂に入れたり食事をつくり食べさせたりと、世話をしてきた妹。小学校三年の時、母が再婚し新しい父との間に誕生した妹でした。高校時代に母の借金が原因で父母が離婚し、父に引き取られたまま会えずにいます。
佐原さんは実父の記憶がありません。一―二歳のころ、両親が離婚したためです。中三の時に養父と交わした会話が今も胸に残っています。
「人間って何のために生きとんのかな」と聞くと養父はいいました。「この世に誕生させられた意味は誰にもある。それを考えるために、今を生きとんのや」。この養父の言葉を、憲法を守るたたかいの糧にしたいといいます。
「共産党は人生の先生」という佐原さん。「何に対しても学ぶところがある。政治のことも教えてもらえる。自分のいいところやあかんところとか、気づかされたことがいっぱいある。いいなあと思う」。
午前中は民主商工会の事務所で、午後はスーパーで働く佐原さん。新しい人生は、いま始まったばかりです。(畠山かほる)