2005年12月30日(金)「しんぶん赤旗」

地位協定の異常

児童ひき逃げ事件でくっきり

命脅かす米軍犯罪野放し

「公務中」事件・事故5年で1495件


表

 児童三人をひき逃げしておきながら、米軍が「公務中」だといえば、釈放される――。二十八日に発覚した東京・八王子市での米兵による事件は、国民の命を脅かした犯罪であっても、日本の法律で裁くことができない屈辱的な地位協定の異常さを改めて示しました。(田中一郎)

■特権的な屈辱条項

 地位協定は日米安保条約に基づいて定められたもので、二十八条から成ります。在日米軍のさまざまな治外法権的な特権を定め、国土の無償提供や、基地返還の際の原状回復・補償義務の免除、米軍基地の排他的使用権、公共サービスの利用優先権、各種税金の免除など、その範囲は多岐にわたります。

 米兵による犯罪を含め米軍の事件・事故の取り扱いについて特権を定めているのは、一七条です。

 日本国内で米兵が犯罪を犯した場合、「公務執行中の作為又は不作為から生ずる罪」については、米軍が第一次の裁判権=優先的な裁判権を持つとしています。米軍が「公務中」とさえいえば、どんな凶悪犯罪であろうと、日本側が裁くことはできないのです。今回の事件は、米軍が米兵を「公務中」とした証明書を出したため、この条項が適用され、釈放されたものです。

 「公務外」であれば、日本側に第一次の裁判権があります。それでも、米兵の身柄が米軍側にある場合、起訴されるまでは、米側が確保することができる規定になっています。米兵が基地内に逃げ込んでしまえば、起訴するまで逮捕できないため、その間に米兵が米国へ逃亡してしまう事件もありました。

 国民の批判を前に、日米両政府は一九九五年、「殺人又は強姦という凶悪な犯罪」をおかした米兵に限り、起訴前の身柄引き渡しについて合意しました。しかし、その内容は、日本側の引き渡し要求に対し、米側は「好意的考慮を払う」としただけ。「公務外」であっても、米軍には特権が与えられているのです。

■当然視の日本政府

 地位協定とともに異常さが際立つのは、こうした米軍の特権を当然視する日本政府の姿勢です。

 在日米軍による事件・事故は、一九五二年度から二〇〇四年度まで、二十万一千四百八十一件、日本人死者は千七十六人に達します(七二年の施政権返還前の沖縄分を除く。防衛施設庁が日本共産党の赤嶺政賢衆院議員に提出した資料から)。このうち、「公務中」の事件・事故は、四万七千二百十八件、日本人死者は五百十七人に及びます。

 こうした「公務中」の犯罪であっても、地位協定には、米側が持つ第一次裁判権の放棄を日本側が求めることができるという規定もあります(一七条三項c)。

 ところが、日本共産党の赤嶺議員が衆院外務委員会で「放棄を米国に迫ったことはあるのか」とただしたのに対し、法務省の大林宏刑事局長は「放棄を求めた例はない」と答弁しています(七月一日)。日本政府は、国民の生命・財産を守るため、地位協定にある権利さえ、行使しようとしないのです。

 しかも、第一次裁判権を持つ米側が、こうした米兵を軍事裁判で裁くことは、ほとんどありません。一九八五―二〇〇四年で、軍事裁判を受けたのは、わずか一人だけ。米軍が「公務中」といえば、米兵犯罪には、なんの歯止めもない野放し状態なのです。

■抜本的改定こそ

 昨年八月に米軍ヘリが沖縄国際大学(沖縄県宜野湾市)に墜落し、市民に死の恐怖を与えた事故も、「公務中」の事故だったため、日本側が乗員を裁くことはできませんでした。

 今年二月の事故報告書には「責任のある者に対し、懲戒及び行政処分がとられた」とありますが、だれが、どんな処分を受けたのかについても明らかにされていません。日本政府は「どう公表できるか、米側と調整を図っている」(外務省の河相周夫北米局長、七月一日)というばかりです。

 こうした屈辱的な地位協定の改定を求める動きが、米軍基地を抱える自治体を中心に広がっています。地位協定は今こそ抜本的な改定が必要です。


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