2005年12月30日(金)「しんぶん赤旗」
主張
米兵のひき逃げ事件
「公務中」という不当な免罪符
東京都八王子市で、米海軍厚木基地(神奈川県)の女性水兵が、ワゴン車を運転して、交差点を渡っていた小学三年生三人をはね、そのまま逃げていました。八王子署は、業務上過失致傷と道路交通法違反容疑で緊急逮捕したものの、米軍から「公務証明書」が送られてきたため米兵を釈放しました。
ひき逃げは重罪です。「公務中」をタテに処罰を免れる米軍の横暴を許していては、主権国家とはいえません。
■無限定の「公務」規定
事件現場は、基地の外であり、日本が警察権を行使すべきです。日米地位協定に「公務中」の米兵の犯罪は、アメリカが第一次裁判権を行使するという条項がありますが、ひき逃げ犯を免罪するのでは国民の安全は守れません。
今回、米軍は、厚木基地から横田基地に「備品をとるため」に行く途中で事故をおこしたと説明しているようです。しかし、水兵は、車をとめて、けがをした子どもの様子をみることも、救急車をよぶこともしていません。児童をひいたあと、犯罪を隠すために逃げました。逃亡まで「公務」だというのでしょうか。米軍のいう「公務中」は信用できません。
米政府は、理由にかかわらず、米兵が基地外で行う車の運転を、事実上、すべて「公務中」だとして日本に裁判権を行使させない態度です。たとえば、東京の米大使館からフィリピンのマニラ米大使館あての「米日地位協定:刑事裁判権」と題する電報があります(一九七〇年二月二十八日)。そこには、五五年の日米合同委員会で、日本人を殺傷した交通違反に関連して、「家から任務先との間」「司令部の催しから帰宅する途中」でも「公務中」とすることで合意したと書いてあります。米兵の通勤途中での交通違反でも、日本側には裁かせないという意味です。
どういう行為を「公務中」とするかは、日米合意に「詳細な了解が記録」されています(外務省「日米地位協定の考え方」増補版)。しかし、まったく秘密にされています。
犯人が所属する部隊の指揮官が発行する「公務証明書」は、日米地位協定一七条で、「公務中」であることの「証拠資料」と規定されています。今回、「公務証明書」の発行で水兵は釈放されました。
しかし、本来、「公務証明書」は「公務中に属するものであるか否かが問題となるような特別の場合にのみ」発行するものです(五四年二月最高裁判所事務総局発行「刑事裁判権の行使に関する協定関係資料」)。
逆に言えば、「公務証明書」を発行しさえすれば、実態はどうであれ、何でも「公務中」となってしまいます。これでひき逃げの処罰をまぬがれるとしたら、文字通りの免罪符です。こんなものを認めるわけにはいきません。
■米軍特権をなくそう
在日米軍は、先制攻撃戦争に駆り出される部隊です。死と直面しながらの軍事活動に従事させられる米兵は、事故や犯罪を起こす可能性が大きくなります。しかも、日本で犯罪を起こしても、きびしい処罰をうける心配がないということになれば、ますます危険です。
米軍が駐留し、治外法権的な特権がある限り、国民の安全は根本からおびやかされます。
日米安保条約を廃棄し、米軍基地のない日本をめざしましょう。日米地位協定は安保廃棄以前に、ただちに抜本的改定を実現させましょう。