2005年12月28日(水)「しんぶん赤旗」
強風対策 運転士も疑問
風速計は1個だけ
特急転覆
JR羽越線の特急「いなほ14号」脱線転覆事故は二十七日、新たに一人の遺体が発見され、山形県鶴岡市の検察事務官の女性(28)と分かりました。死者は計五人になりました。事故原因調査も続いていますが、本紙が運転士などJR関係者から取材した結果、現場の強風対策に大きな問題があったことが鮮明になってきました。国鉄民営化以降、列車のスピードアップをはかる一方で、強風で知られる現場には風速計がひとつしかないなどの事態が放置されていました。
■新たに女性1遺体
JR東日本の発表でも、事故現場直前の第二最上川橋梁(きょうりょう)で、二〇〇二年六月一日から三年半余の間に、秒速三五メートルの強風を二回観測していました。三〇メートル以上を記録して運行中止となったケースも十六回。二五メートル以上三〇メートル未満で徐行運転したのは八十二回もありました。
特急「いなほ」に二十年以上乗務経験を持つベテラン運転士は、風速による指令と現場の実感のずれを指摘します。「なぜこの程度の風で速度抑止指令がくるのかというときもあれば、逆にこんなに風が強いのに大丈夫かという時もある」と語りました。
正確な風速をつかんだうえで、指令が出されているかどうかが以前から問題になっていました。
別の元運転士は、「川面を走る風がのり面にぶつかり複雑な突風になる。六百メートルもの橋なのにたもと付近に風速計が一個では少なすぎる」と強調しました。
関西国際空港連絡橋には六カ所に風速計がついていますが、国土交通省によると「一カ所しかないのが一般的」。同省は今回の事故で鉄道各社に設置位置の検証を求めるという後手の対策です。
国鉄の分割民営化による「合理化」「規制緩和」で安全は後回しで、スピードアップがおこなわれました。
羽越線のべテラン運転士は、「羽越線は強風や雪だけでなくカーブや高低差のある地形で運転が大変。酒田―新潟間は時速九十キロだった最高運転速度が民営化以降百二十キロになった」と語ります。「仮に予測できない事故であったとしても、スピードがあんなに出ていなければこんな大事故にはなっていなかったのでは」という声も聞きました。JR東は酒田―東京間の時間短縮を宣伝し、そのなかでスピード限度もあがりました。
コスト削減で乗務員も二人から一人になり、国労などが二人体制に戻してほしいと要望してきました。
運転士らは「客を安全に運ぶことを最優先に投資すべきだ。事故が起きてからでは遅い」と一致して指摘します。(阿曽 隆)