2005年12月18日(日)「しんぶん赤旗」
シリーズ医療改革
負担を軽減というが
乳幼児医療
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政府は今回の「医療改革」が必要な理由の一つとして少子化をあげています。少子化に対応した中身はあるのでしょうか。いま育児休業中の女性に聞きました。(大谷直)
政府与党の「改革大綱」にある具体策の一つは、乳幼児医療費負担の軽減対象の拡大。現行は、三歳からおとなと同じように三割負担を取られ、零歳から二歳までは入院・通院とも二割に軽減されています。この軽減対象年齢を、二〇〇八年度から就学前までに拡大するといいます。
一歳十カ月と生後二カ月の二人の女の子を育てる女性の場合――。
住んでいる東京・多摩市には独自の助成制度があり、就学前までの乳幼児の医療費負担が無料となっています。「実際にはいまも支払う必要がないので、二割負担に軽減されたといっても、実感がわきませんね」
訪ねたこの日、赤ちゃんは機嫌がよく、ミルク以外はぐずる様子もありません。でも、二人ともよくカゼを引き、月に二回は病院に。タクシーを使うこともあり、市の無料制度がなければ結構な出費になります。
■乳幼児にも食費
乳幼児医療費への助成制度の対象は、自治体の財政力のあるなしによってばらつきがあります。就学前まで二割負担になれば、これまで自治体独自に持ち出していた助成費用が軽くなるところもでてきます。自治体の助成制度の改善条件が広がるともいえます。二割といわず、地方に広がる乳幼児医療の無料制度を国の制度にすれば、本当の「改革」になるはず。
この女性はいいます。「同じように子どもを育てているのに自治体ごとで制度が違うのはおかしい。就学前までは国が無料化に踏み切るべきです」
下の子は、出産直後、高熱で入院し、約半月、点滴などの治療を受けたといいます。二割負担だと十一万円かかりますが、自治体の制度を利用して無料で一安心。ただ、「納得できないこと」がありました。乳児にも患者負担として一日七百八十円の食費がかかったのです。二週間ほどの入院で一万円以上にもなりました。
これについて厚生労働省にたずねたところ、「在宅の食費との公正を期すために年齢に関係なく、一律で定額徴収している」という説明。東京都の乳幼児助成制度も、入院時の食事療養費は助成の対象外です。
下の子が飲む粉ミルク(八百五十グラム)は、およそ二千六百円。一缶を使い切るのに一カ月ほどかかります。「ミルク代にしても高すぎる。食事を食べていないのに食費がかかるのはおかしい」とこの女性はいいます。
■出産育児一時金
出産費用は公的医療保険の対象外となります。胎児と母体の定期健診から分娩(ぶんべん)・入院までの全額を実費で支払うので、子育て世代には大きな負担となります。これを軽減するのが一時金制度です。「大綱」は、出産育児一時金について現在一律三十万円の支給額に五万円を上乗せ。〇六年度から一律三十五万円とします。
実際にはどのくらいか。別の子育て中の女性にも体験を聞きました。
定期健診(保険外)は一回につき約四千円。月一回から二週間に一回程度、合計十三回通院しておよそ五万円でした。もっとも負担が大きい分娩と入院費用は、五日間入院して四十万円。合計で四十五万円になりました。
病院ごとに、食事、個人部屋などのサービスに格差があります。こども未来財団の調査(〇二年度)では、分娩・入院の費用は平均で三十六万五千円。健診を含めた出産費用は平均四十五万五千円で、妊婦服などの出産準備費を合わせると五十万四千円もかかります。
多摩市の女性は、妊娠中には本人の医療費負担が増えると話します。「カゼや軽い体調不良でも、何かあったら怖いので通院する。受診したら入院となり、点滴などで三万円かかった」
出産育児一時金三十五万円への引き上げは半歩前進とはいえ、「まだまだ足りない」のが実態です。