2005年12月8日(木)「しんぶん赤旗」
12・8太平洋戦争開始64年 戦後60年
世界の決意
侵略戦争否定の原点 再確認
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今年は、かつて侵略戦争を推進した日本、ドイツ、イタリアのファシズム勢力が国際的な反撃で敗北し断罪されて六十年の節目でした。
日本では小泉首相の靖国神社参拝はじめ戦争美化、侵略正当化の動きが強まる中、世界では、戦争を二度と許さない決意をこめた催しが行われました。
国連総会は昨年十一月、「第二次世界大戦終結六十周年を記念する決議」を全会一致で採択し、ナチス・ドイツが無条件降伏した五月八、九両日を「記憶と和解の日」として毎年記念するよう各国に呼びかけました。
これに応えて各地で行事が行われ、モスクワの記念式典には世界五十カ国以上の元首が集まって平和の誓いを新たにしました。
一連の行事を通じて、ファシズムと侵略戦争の否定という戦後の原点が改めて確認され、戦争の責任が明確にされたのが特徴でした。
■米下院が決議
米下院は七月十四日、世界大戦終結六十周年の決議を採択し、「東京における極東国際軍事裁判での判決、また人道に対する罪を犯した戦争犯罪人としての特定の個人への有罪判決を再確認する」と明記しました。ブッシュ米大統領も八月三十日、対日戦勝六十周年記念演説で、かつての日本の行動を「西側植民地主義をもっと過酷で抑圧的なバージョンに置き換えただけだった」と指摘。日本の一部の人たちが主張する「アジア解放のためだった」とする侵略戦争正当化論を批判しました。
中国では九月三日、抗日戦争をたたかった元兵士など六千人が参加し、「抗日戦争勝利六十周年記念大会」が北京で開催されました。胡錦濤国家主席が記念演説で、「中国人民の抗日戦争と世界の反ファシズム戦争の勝利は、中国人民と世界各国人民の徹底的勝利として歴史に刻まれた」「過去を忘れることなく、教訓を銘記しなければ、歴史の悲劇の再演は避けられない」と強調しました。
■独・伊の反省
日本とともに侵略戦争の責任を問われたドイツやイタリアでは、国の指導者が過去の侵略への真剣な反省を表明し、抵抗した人々に賛辞を贈りました。
ドイツのシュレーダー首相はフランスやチェコ、ポーランドなど各国の首都で行われた解放六十周年記念行事に出席し、ナチスの犯罪を謝罪しました。同首相は四月十日、ワイマール郊外にあるブーヘンワルト強制収容所解放六十年式典で次のように述べています。
「過去を元に戻すことはできないし、克服することは実際にはできない。しかし、歴史から、わが国の最悪の恥辱の時代からわれわれは学ぶことができる。不法と暴力、反ユダヤ主義、人種主義、外国人排斥がわが国でふたたび好機を得るようなことは決して許さない。ナチスの時代、そして戦争と民族虐殺と犯罪を胸に刻むことは、私たちの国民的アイデンティティーの一部となっている」
イタリアのチャンピ大統領は四月二十五日、ミラノで開かれたファシズムからの解放六十周年記念集会で次のように述べました。
「ナチスによる占領、ファシズム独裁とのたたかいは、万人のための平等な諸権利に基づく新しい国家の礎を確立するたたかいでもあった」「戦争や悲劇の記憶、自由のために命を落とした人々の記憶を決して失ってはならない」(坂本秀典)
■欧米の報道
■「靖国史観」に批判の大波
小泉首相の靖国神社参拝や歴史をゆがめた教科書の採択など、日本国内で公然化した歴史の逆流に対し、世界各地で、戦後の原点と国際社会の規範を真っ向から否定するものという批判が高まったことも特徴でした。
■不破議長提起
日本共産党の不破哲三議長は五月十二日に「日本外交のゆきづまりをどう打開するか」と題して講演。靖国神社が境内に設置している遊就館が、過去の日本の戦争を「自存自衛の戦争」「アジア解放の戦争」として正当化し、責任者の“名誉回復”を図る運動のセンターになっていることを具体的に明らかにしました。
不破氏が問題提起した直後の六月、米国のニューヨーク・タイムズ紙やUSAトゥデー紙、フランスのルモンド紙が一斉に靖国問題を取り上げたのが第一の波でした。十月十七日の小泉首相の靖国参拝を機に、第二の波が起こりました。
これらの報道や論評はいずれも遊就館の展示内容を紹介。対米英戦争を含めて「過去の戦争を正当化」「軍国主義の過去を再評価」という靖国神社史観を問題にし、現代世界が基礎とする平和秩序や原理と相いれないと強調しました。
首相の靖国参拝後、米国で最も厳しい批判の矢を放ったのはニューヨーク・タイムズでした。同紙は十月十八日付の社説で参拝を、「無意味な挑発」と指摘。「首相は日本軍国主義の最悪の伝統を公然と信奉することを明確にした」と批判しました。また靖国神社と遊就館が「日本の暴挙について、その非を認めようとしない見解を鼓吹している」と指摘しました。
米紙ロサンゼルス・タイムズ十月十七日付は、靖国神社には「アジア解放を崇高な大義とし、日本の軍国主義を美化する博物館がある」と強調しました。参拝の意味を靖国神社の性格にいっそう立ち入って追及したのは、評論や解説に重点を置く米紙クリスチャン・サイエンス・モニター(十月二十一日付)でした。同紙は、遊就館の長文ルポを掲載。靖国神社が、太平洋戦争擁護の宣伝センターになっていることを克明に描きました。
欧州でも、ルモンド十月十九日付は「帝国日本が起こした侵略戦争を、日本が引きずり込まれた解放戦争だとして公然と正当化する政治家と最重要人物がますます多くなっている。靖国神社付属博物館(遊就館)と同じ史観だ。小泉首相の靖国参拝は、彼の意図とは違うとしても、この解釈を承認するものだ」と手厳しく論評しました。
■米政府内でも
米政府内や議会から侵略戦争正当化論への批判が出ました。国務省マコーマック報道官が、近隣国の懸念が広がることに言及(十月十八日)。九月二十九日に米上院外交委員会の東アジア太平洋小委員会でとりあげられ、ジェラルド・カーティス米コロンビア大学教授は、靖国神社について「若者たちをアジアと太平洋の戦場に送り込んだイデオロギーや政府の政策をたたえる神社」と性格付け、侵略戦争肯定を批判しました。(西村央)
戦後六十年の日本の動きをアジアの識者はどうみているか。日本問題に詳しいタイ国立チュラロンコン大学政治学部のスリチャイ・ワンケオ助教授に聞きました。(バンコク=鈴木勝比古)
■タイの日本専門家語る
■アジアと歴史共有を
小泉首相の靖国神社参拝や教科書問題で、世界が不安を感じています。首相はアジア各国の反応を予想できるはずです。それでも参拝しました。想像力に欠け、周囲に気を配らない単独主義の外交だといえます。
■なぜ単独主義か
なぜ単独主義を選び、緊張を選ぶのか理解に苦しみます。日本にはもう少し期待していましたが、裏切られました。国連安保理常任理事国入りが支持されなかったのも、こうした動きの結果であることははっきりしています。
東アジアの平和、緊張緩和のためには、歴史を共有できる感覚が必要です。今年は戦後六十年ですが、日本の指導者はこの記念すべき年の意義がわかっているのかどうか。日本とアメリカとの緊密な関係は戦後六十年ですが、アジア各国との関係は千年以上にわたります。アジアといろいろな懸け橋をつくり、もっと開かれた人々の交流を拡大することが大切ではないでしょうか。
日本が憲法九条を維持できるかどうか心配しています。九条が日本とアジアの平和にどんな役割を果たしてきたか、もっと議論を活発にする必要があると思います。GPPAC(ジーパック=武力紛争予防のためのグローバル・パートナーシップ)の宣言を歓迎します。
■アジアの9条に
日本の憲法九条を東南アジアの九条にするネットワークが必要です。今の世界は、国境を越えたアイデンティティーの共有を求めています。われわれだけが安定していて、向こう側は安定しない状況はだめです。信頼関係をつくる各国間の人々の交流の場が必要です。
アジア各国の草の根のネットワークをつくり、多様な経験を交流し、信頼関係を築くことが必要です。
ドイツとイスラエル、ポーランドの関係では人々の意識を変えることに成功しました。国境を越えて交流する必要があります。一国だけの議論ではなく、国境を越えたダイナミックな議論を積み重ねることが必要です。
▼ナチス・ドイツの降伏 第二次世界大戦でナチス・ドイツは1945年5月7日、連合軍総司令部があるフランスのランスでソ連代表も同席して降伏文書に調印しました。文書は8日午後11時1分に発効しました。ソ連軍の希望で9日にベルリンのソ連軍本部で再度ドイツ軍代表が降伏文書に調印しました。このためドイツ政府は正式に8、9両日を降伏の日としています。
▼GPPAC 武力紛争予防と世界の平和建設のために活動する市民団体の国際的ネットワーク。二〇〇五年七月、ニューヨークの国連本部で世界百十八カ国の非政府組織が参加して国際会議を開きました。採択した「世界行動宣言」は日本国憲法第九条を「アジア太平洋地域全体の集団安全保障の土台」と高く評価しました。