2005年12月8日(木)「しんぶん赤旗」

12・8太平洋戦争開始64年 戦後60年


 いまから六十四年前の一九四一年十二月八日、日本軍は突然、ハワイの真珠湾とマレー半島を攻撃、アメリカ、イギリスなどとの戦争に突入しました。当時すでに日本は韓国と台湾を植民地とし、中国東北部での「満州事変」(柳条湖事件=一九三一年)や中国との全面対決のきっかけとなった盧溝橋事件(一九三七年)を通じて、侵略戦争を拡大していました。「アジア・太平洋戦争」と呼ばれたこの戦争での犠牲者は、一九四五年八月の日本の敗戦まで、日本で三百十万人、アジア・太平洋の各国では二千万人に上るといわれます。戦後定められた憲法は「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすること」を前文に明記しました。戦争が終わってことしで六十年。小泉首相の靖国参拝や自衛隊の海外派兵、改憲などの策動が続くなか、侵略戦争への日本の反省と日本の戦争責任をめぐる論議が内外で高まっています。


■元兵士の証言 記者は聞いた

 戦後六十年の今年、「赤旗」社会部が取り組んだシリーズ企画「元兵士が語る 『大東亜戦争』の真相」ではこれまでに二十人が体験を証言しました。いま、「元兵士」のほとんどは八十歳を超えます。この取材を担当した二十代、三十代記者が取材を通じて実感した「侵略戦争」とは――。三人の記者がリポートします。

■侵略語る苦しさと願い

 「『敵憎し』でね。女性でも子どもでもやる(撃つ)」「こっち(日本軍)も殺されてる。『やれ、やったれ』という心理状態に自然となる」

 日本軍が捕虜や非戦闘員の虐殺を繰り返した中国戦線。取材した元兵士に当時の心理状態について聞くと、多くがそう答えました。「戦場では、それが当たり前やった」。とても言いにくそうに…。

 日本が築く「大東亜共栄圏」。日本は他国より優れていて、さからう中国人や朝鮮人は殺して当然――。それが元兵士たちに押しつけられた価値観でした。

 戦後、その価値観は百八十度転換し、「殺さない国」になることを内外に宣言する日本国憲法が制定されました。価値観は変わっても元兵士の記憶は消えません。「侵略」の記憶を語ることの苦しさ。「戦場の実相を語ってください」と頼むことは、時に「あなた方の悪行を告白してください」と要求することでもありました。

 その要求にこたえようと口を開いた元兵士。戦争の実相を伝えたい。二度と同じ思いをさせたくない――。強い願いが伝わってきました。(安川崇)

■戦争体験ない事の幸せ

 戦場と現在―。自身の生き方の違いに葛藤(かっとう)する元兵士たちがいました。

 「自分が何をしたか、子どもにも話したことがない」という人。「戦争に人間性を奪われた」と語る人…。

 シャツの襟に靖国神社のバッジをつけ、取材に応じた宮本弘康さん(89)。中国での首きりと、上官の強姦(ごうかん)を証言しました。

 「いくら戦争でも、いやだった」。宮本さんはときおり顔をゆがめ、泣いているかのような表情をしました。

 取材の約一週間後―。できあがった原稿を持って、宮本さんの家を訪ねました。原稿を差し出しても、机の上に置いたまま、宮本さんは見ようとしません。原稿を読み上げました。

 少したって、宮本さんがポツリといいました。「戦争というのがどんなものか知ってもらえるなら…。それで出していいよ」

 憲法九条改悪や戦争美化の動きに、「黙ってはいられない」と証言する人もいました。

 「戦争ぐらい悪いことはありません。手段を選ばずというのが基本でした。残虐です」。取材が始まってすぐ、小暮哲夫さん(85)は言いました。

 「物をとって、食って、歯向かう者は殺した」という日本軍の実態。「毎日のように、食料を奪いに行った。山に逃げている人の方に行って、機関銃をぶっとばして…」

 小暮さんは、朝の十時から昼食も取らず、五時間ほど当時の様子を語り続けました。

 「ここでの戦闘はひどかった。目の前で日本兵が何人も死んだ。中国兵をたくさん殺した」。地図を指さし語る、小暮さんの記憶の正確さ。戦場でしたこと、見たことは「気が狂わない限り、忘れられない」と話しました。

 取材が終わり、帰り際、小暮さんが声をかけてきました。「あんたたちは、人を殺す戦争に行ったことがない。それは幸せなことなんだよ。すばらしいことじゃないか」(本田祐典)

■イラクの現状に重ねた

 中国・湖北省雲夢の町に従軍した彦阪保夫さん(88)の体験を聞いたときのこと。

 彦阪さんが「いちばん忘れられない日本軍の蛮行」と話した「森に向けての実弾射撃訓練」。

 「日本軍は森に農民が点在しているのを知りながら撃った。訓練が終わると森から住民がけが人を戸板に乗せて町に来た」と語りました。

 「ゲリラは農民と同じ格好をしていて区別がつかないからと、村ごと焼き払った」と語った討伐作戦。農作物や家畜の強奪など抵抗できない中国人への蛮行の体験――。彦阪さんは「中国の人たちは自分の国でありながら、『良民証』を持っていなければ町にいれなかった。ひどいもんや」と憤りました。日本軍の横暴から、思い浮かんだのがいま米軍が攻撃するイラクの現状でした。

 人が人を大切に思えなくなってしまうのが戦争だ――。元兵士の話をそう聞きました。(本吉真希)

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