2005年12月2日(金)「しんぶん赤旗」
政府・与党の「医療制度改革大綱」
高齢者を狙いうち
新たな負担 患者に重圧
一日に決定した政府・与党の「医療制度改革大綱」。医療費を減らすことを口実にして新たな負担増が目白押しです。
■GDP比で給付抑制
■大企業と国庫を軽減
今回の制度改革の最大のねらいは医療費の伸びを恒久的に抑えていくことです。大企業の保険料負担や、国庫負担を軽減するためです。カギになるのはGDP(国内総生産)など経済指標との比較。医療給付費(医療費から患者負担を除いたもの)の伸びを、政府予測のGDP伸び程度(1―2%台)に抑える仕組みをどう盛り込むかです。
「大綱」は、五年後の給付費目標をあらかじめ決めておき、伸びすぎを検証する「目安」としました。目標の給付費を超えると、自動的に伸びすぎを抑制する見直しができるようになります。
伸びをはかる指標についても、「経済規模と照らし合わせ」ること、具体例としてGDPや国民所得の一定割合とすることを盛り込みました。
ただ目標となる五年後の給付費をいくらにするかについては、「大綱」は明示しませんでした。財界は二〇一〇年度の給付費を三十兆円以内という抑制目標を立て、厚労省は三十二兆円程度を想定。財界要求どおりにすれば、今回先送りされた保険免責制の導入などが避けられなくなります。
■負担限度額引き上げ
■重病患者に追い打ち
かぜなど軽い病気の患者負担を増やす「保険免責制」は見送られましたが、医療費が高額となる重病人の負担増となる自己負担限度額の引き上げは厚労省案どおり盛り込まれました。
「高額療養費」と呼ばれる制度で、上限を超える負担は後から払い戻しがあります。七十歳以上と七十歳未満で自己負担限度額の仕組みが分かれています。
現行制度では、七十歳未満で所得が一般(月額五十六万円未満)の人の一カ月の負担限度額は、七万二千三百円(定額部分)に、治療にかかった医療費から二十四万一千円を引いた額の1%(定率部分)が上乗せされます。定額部分は、標準的な月額報酬(給与)の25%相当として設定されています。これを賞与(ボーナス)も含めた総報酬を基準にするという名目で、八万百円に引き上げをはかります。
厚労省は定率部分についても2%に引き上げたい考えでしたが1%で据え置きとなりました。
■人工透析も2倍に
■厚労相答弁投げ捨て
「大綱」は、腎臓病などにより継続的に人工透析を受けている患者の負担限度額について、「所得の高い者」について引き上げを行うことを打ち出しました。
厚労省は現行月一万円の限度額を二万円に引き上げる方針です。
対象者の所得水準は月収五十三万円以上としています。直前まで「そういうこと(人工透析患者の負担額引き上げ)は考えていないし、検討もしていない」「医療費の改革のなかで申し上げるつもりはない」(尾辻秀久厚労相=当時、十月十一日の参院厚労委員会)と国会で答弁しながら、短期間で投げ捨てました。
■70〜74歳は2割負担へ
■一定所得以上は3割負担
医療費抑制は高齢者をねらいうちにします。病院窓口で支払う自己負担を一割にしているのは優遇しすぎているという考えで、二割に引き上げられます。二割負担の対象をどこまで広げるかが政府・与党内の調整点となりました。世論の反発を恐れて結局七十歳から七十四歳までとしました。
七十―七十四歳の年間医療費の一割負担は平均七万円程度。二割負担になると二倍の十四万円になります。
さらに一定所得以上(夫婦世帯で年収六百二十万円以上、〇六年度実施の公的年金等控除の見直し後は五百二十万円以上)になると、いま二割負担の高齢者(七十歳以上)は三割に引き上げられます。たとえば糖尿病などで月三回通院している八十七歳の男性の場合、現行は二割負担で月七千六百二十円の窓口負担です。これが三割負担だと一万千四百三十円に上げられ、四千円近い負担増となります。
この間、年金は削られ、介護保険料も上がり、高齢者に「痛み」ばかり押し付ける小泉内閣。新たな負担増は高齢者の暮らしに重くのしかかり、病院への受診を鈍らせて健康破壊を広げることになります。
■長期入院費
■居住費・食費を徴収
高齢者の長期入院は、食費と居住費を患者負担とします。介護保険適用の療養病床ではすでに食費・居住費の全額自己負担が導入されましたが、これを医療にまで拡大するものです。
現在の入院食は、食材費分として一日七百八十円、月額二万四千円(厚労省試算)が患者負担となっています。厚労省は新たに「調理コスト」を加える方針で、食費負担は月額四万六千円になります。居住費は「光熱水費相当額」として一万円を徴収する予定。合わせて月額三万二千円の負担増となります。
■新高齢者保険を創設
■1人当たり年7万円に
「大綱」は七十五歳以上を対象にした高齢者だけの「独立した医療制度」を二〇〇八年度から創設するとしています。
現行制度で、国保や被用者保険(組合・政府管掌健保など)の被扶養者(サラリーマンの親など)として保険料を払っていない人(七十五歳以上で二百四十万人)も含め、すべての高齢者から保険料を徴収します。
保険料は一人あたり年間七万円程度となります。介護保険料と合わせると一人月額一万円程度の負担となります。
財源は、患者負担を除くと、公費(国、自治体の負担)が約五割、「現役世代からの支援」として国保や被用者保険からの拠出が約四割、残り一割が高齢者からの保険料としています。
厚労省は市町村を保険の運営主体としましたが、地方側が反発。「大綱」は、財政運営について「都道府県単位で全市町村が加入する広域連合」が行い、保険料徴収の事務は市町村が行うとしています。
新高齢者保険の給付財源に占める保険料の割合は、発足時の一割から段階的に引き上げていく仕組みとします。