2005年11月20日(日)「しんぶん赤旗」
主張
耐震強度偽造
安全を丸投げする政治の構造
建物の耐震強度をチェックする「構造計算書」の偽造によって、安全が保障されないマンション、ホテルが建設されていたことがわかり、大問題になっています。
何千万円も出して入居した新築マンションなのに、「震度5強で倒壊する恐れがあります」といわれたら、たまったものではありません。八月に開業したばかりの東京都心のホテルは、営業休止になりました。
「計算書」を偽造した一級建築士の行為は、人命を脅かすものであり、絶対に許されません。厳しい責任追及は当然です。同時に、再発防止のためには、事件の背景についても、目を向ける必要があります。
■検査を民間任せに
一級建築士が「計算書」を偽造しても、審査に通らなければ、建築確認には至りません。今回は、民間の「指定確認検査機関」が審査して建築確認を出していました。偽造した建築士が「普通にチェックしていれば構造計算書がパスすることはなかった」という程度のものでしたが、見過ごしていました。
民間機関でも建築確認や完了検査ができるようになったのは、一九九八年の建築基準法改悪からです。政府の「規制緩和推進三カ年計画」(九八年三月閣議決定)にもとづく措置です。
そのときの法案審議で、日本共産党の中島武敏衆院議員(当時)は、営利を目的とする指定確認検査機関では、競争が激しくなった場合に「安かろう悪かろう」の「手抜き検査」になる恐れがあるが、「そうさせない担保」は何か、と質問しています(衆院建設委員会、九八年五月十五日)。政府側の答弁は――現在の「悩み」は「いかにして(民間検査機関を)立ち上げるか」で、それが「頭の中の八割方、九割方を占めて」いる。手抜き防止策が二の次になっていたことを示す答弁です。
緒方靖夫参院議員は、「指定検査機関から建築主事に報告はあるけれども、必ずそれを建築主事がチェックすることにはなっていない」「事実上民間任せになってしまうおそれがある」と指摘し、「行政のチェックがきちんとなされることが不可欠」だと質問しました(参院国土・環境委員会、九八年五月二十八日)。
政府側は、行政の監督責任は当然だが「民間確認検査機関に…業務の大方をお願いして、行政は…業務のありようを監督する」のだと答えました。検査のチェックと「業務のありよう」の「監督」は別です。これでは、検査それ自体は、「事実上民間任せ」になってしまいます。
九八年当時でも、地方公共団体の建築主事の体制は不十分で、完了検査を三、四割しかできない状況がありました。その体制を強化し、民間機関の確認・検査をチェックできる仕組みにするのであれば、全体としては、前進します。しかし、政府が実際にやったのは、規制緩和を絶対視、万能視し、建築確認のような人命の安全にかかわる仕事までも、民間任せにすることでした。
■公的責任どう果たす
小泉首相は、「民間でできることは民間へ」と繰り返しています。しかし、政府として、本来、考えなければならないのは、「民間」では担いきれない公的責任をどう果たすのか、ということです。国民の生命と安全を守る公的な仕事まで、やみくもに営利追求の新たな市場として開放するのは、安全の丸投げです。「改革」の名に値しません。国民の安全を守る仕組みやルールをゆがめる政治の構造を変える必要があります。