2005年11月18日(金)「しんぶん赤旗」
定率減税全廃と消費税増税
経済団体から異論
景気に水さす 不安与える
「一九九七年と同じ轍(てつ)を踏んではならない」(日本商工会議所)――小泉政権が、庶民大増税計画を具体化しようとしていることに、経済団体からも、異論・反論の声が相次いでいます。橋本内閣時代の九七年、消費税増税など九兆円負担増で経済を失速させた「橋本政策不況」の苦い経験を繰り返してはならないとの警告も出ています。(渡辺 健)
先の総選挙では、「『サラリーマン増税』を行うとの政府税調の考え方はとらない」(政権公約)と公約した自民党。選挙が終わるや、谷垣禎一財務相は、サラリーマン増税のひとつである所得税の定率減税全廃(所得税は〇七年一月、住民税は同六月実施)を宣言。政府税調(首相の諮問機関、石弘光会長)は十一月末に小泉首相に提出する来年度税制「改正」答申に定率減税全廃を盛り込む方針です。
■増税へひた走る
消費税についても、谷垣財務相は〇七年一月開会予定の通常国会に、消費税率引き上げ法案を提出する意向を表明。大増税路線の具体化にひた走ろうとしています。
これに対して経済団体のなかからは、「反対」「慎重」論が噴き出しています。
日本商工会議所は、来年度税制「改正」に関する要望で「国民の負担増は、経済活力のみならず、景気に少なからず悪影響を与える」、「定率減税を全廃することは時期尚早であり、行うべきではない」と反対を表明しています。
消費税についても同商工会議所は、「当面の諸課題に関するポジション・ペーパー」と題する意見書(十月三十一日)のなかで、税率引き上げが当然のこととする議論のあり方は「疑問である」と指摘。次のように述べています。
■97年の轍踏むな
「景気がようやく上向きかけようとした段階で、消費税や社会保険料の引(き)上げなどにより国民に負担増を求めた九七年と同じ轍を踏んではならない」「(税率引き上げは)個人消費などに大きな影響を及ぼすことから、景気回復に水をさす」
大増税の、個人消費や景気への影響の懸念は、各団体の来年度税制「改正」要望に共通しています。
日本百貨店協会は「平成九年(九七年)の消費税率引き上げは、相次いで発生した金融不安と相乗して深刻な消費不況を招いてしまった」と振り返ります。
■今は重要な時期
現在の景気について同協会は「肝心な個人消費に関しては、依然として踊り場を脱しておらず、消費回復が実現して国内景気を確実な上昇軌道に乗せるためには、今は何を行うべきで何を行うべきではないか重要な時期である」として、いまの時点での消費税率引き上げや定率減税の縮減・廃止に反対を表明。
日本チェーンストア協会は「『個人所得を中心とした増税色に満ちたグランドデザインを実施すること』は、国民の消費活動に甚大な影響をもたらす」として個人所得税の増税に反対。定率減税の廃止は慎重に検討することを求め、消費税率の引き上げは「国民に更なる不安を与える」と反対しています。
■庶民増税をめぐる経済団体の態度
<日本商工会議所>
○「たとえ福祉目的のために消費税を引(き)上げるといわれても、国民は納得しないだろう」(「当面の諸課題に関するポジション・ペーパー」10月31日)
○「個人消費に水を差すような政策はとるべきではない。したがって、定率減税の縮減を予定通り実施するかは、今後の景気動向を慎重に見極めることが必要である。もとより、平成18年(2006年)度税制改正において、定率減税を全廃することは時期尚早であり、行うべきではない」(来年度税制「改正」要望、9月14日)
<日本百貨店協会>
○「個人消費が完全に回復軌道に乗るまで(の)間は、『消費税率の引(き)上げ』は行うべきではない」「一進一退にある個人消費を確実に悪化させる『定率減税』の縮減・廃止には反対である」「勤労世帯や中堅所得層の消費の減退をもたらす各種控除制度の圧縮には反対である」(来年度税制「改正」要望、7月8日)
<日本チェーンストア協会>
○「確固たる景気回復の軌道に乗っていない現在のタイミングで個人所得課税の増税を行うことには反対します。『定率減税の廃止』は慎重に検討されるべきである」「将来に向けた道筋が見えないままでの消費税率の引(き)上げは、必ず国民に更なる不安を与えることになり反対です」(来年度税制「改正」要望、9月21日)
<日本専門店会連盟(日専連)>
○「徹底した財政構造改革なくして、消費税引き上げを前提とした税制改正に反対」(第60回全国大会の決議、6月9日)
<全国中小企業団体中央会>
○「拙速かつ安易な消費税引(き)上げの議論は当面行わないこと。また、個人所得税・住民税の定率減税を維持するとともに、個人所得課税見直しは慎重に対処すること」(第57回中小企業団体全国大会決議、9月15日)