2005年11月12日(土)「しんぶん赤旗」
公教育での進化論否定
ブッシュ政権下で加速
住民が批判、地方選に反映
【ワシントン=山崎伸治】ダーウィンの進化論を否定し、「知的な存在による設計」の結果だと主張する「インテリジェント・デザイン」(ID)という考え方がいま米国の公教育に持ち込まれようとしています。その運動の後ろ盾になっているのはブッシュ政権を支えるキリスト教右派。しかし国民の間には批判の声もあります。
■科学の衣で
米国ではこれまでも、神が六日間で宇宙と生物を創造したという「旧約聖書」の「創世記」こそが事実だという保守的なキリスト教の考え方と進化論をめぐって論争が繰り返されてきました。公教育で進化論を教えるかどうかが一九六〇年代に裁判で争われた結果、憲法修正第一条の政教分離原則によって、創世記を事実として教えることはできなくなっています。
これに対しID推進派は、神ではなく「知的な設計者」がいて世界を設計したのだとして、IDは「宗教ではない」と主張します。神を「知的な設計者」と言い換えただけで、考え方は創世記そのものです。
さらに推進派は進化論を「批判によって研究される科学理論の一つとして教えるべきだ」(推進団体「ディスカバリー研究所」)と主張。IDと進化論を同等に扱うよう求めています。科学の衣をまとわせ、進化論と抱き合わせにすることで、学校教育に持ち込みやすくする意図があります。
ペンシルベニア州ドーバーでは二〇〇四年十月、全米で初めて、教育委員会がIDを学校で教えるよう決定しました。このほかカンザス、オハイオ、ジョージアといった州で、学校の教育課程にIDを盛り込む、あるいは進化論の教育を禁止することが問題になっています。
■容認発言も
ID推進派を勢いづかせているのは、ブッシュ政権です。IDは同じキリスト教の中でも、右派の福音派に支持されているといわれます。ブッシュ氏自身が福音派であり、大統領当選にも同派は大きな力を発揮しました。
今年八月、ブッシュ大統領は「IDと進化論のいずれも教えるべきだ。そうすれば何が問題になっているのかわかる」と発言。IDを学校教育に持ち込むことを容認しています。共和党のフリスト上院院内総務も同様の発言をしています。
八日におこなわれた地方選挙では、そうした動きに批判的な結果が出ました。ドーバーでは教育委員の選挙で、ID支持派の八人の現職(いずれも共和党)がすべて落選。住民の批判の強さが浮き彫りになりました。ドーバーではIDの学校教育への持ち込みに反対する十一人の親が教育委員会を相手どって訴訟を起こしており、来年一月に判決が出る予定です。
▼進化論 生物の種は時間とともに変化するものであり、いま存在する生物はその変化(進化)の中で生まれてきたという学説。ダーウィンは一八五九年に出版した「種の起源」で、個体の変異が自然の中で淘汰(とうた)され、それが蓄積されて進化が起こると説明しました。