2005年11月9日(水)「しんぶん赤旗」

フランス暴動

背景に移民社会の不満


 パリ郊外から全国に広がった暴動は、差別や貧困などさまざまな理由から、フランスに「同化」できなかった移民社会の不満が爆発したものといえます。各国がフランスへの観光に注意を呼びかけ、同様に移民を多く抱える周辺国では騒乱の「感染」を真剣に恐れる事態も生まれています。(パリ=浅田信幸)


 フランスで移民問題でもある「郊外」問題が社会的、政治的な問題として浮上するのは、一九七〇年代後半、石油ショック後の景気低迷で失業問題が悪化し始めてからのことです。戦後の「栄光の三十年」と呼ばれるフランスの経済成長に貢献した移民の多くが、職を失い、郊外の低家賃住宅に定着するようになりました。同国の移民の半数は北アフリカの旧植民地(アルジェリア、モロッコ、チュニジア)出身者で、そのほとんどがイスラム教徒です。

■郊外に集中

 フランスには現在、「治安重点市街区域」(ZUS)に指定された地区が全国に七百五十一カ所あり、多くがパリやマルセイユなど大都市の郊外に集中しています。暴動発生の直前に公表されたZUSに関する報告によると、同区域の失業率は20・7%と全国平均の倍。北アフリカなど欧州連合(EU)外の諸国出身の移民の間ではさらに深刻で、男性26%、女性38%が失業者です。

■統合と同化

 フランスの移民政策は「統合による同化」を建前としてきました。「同化」は、政教分離をはじめフランス革命以来の共和制原則を受け入れフランス人になりきることを意味し、「統合」は文化的差異を認め合いながら共生社会をつくりあげることを意味するようです。「違いを認める文化」とはフランス人がよく自慢げに語る文句で、統合が同化を促すという発想に基づいているようです。ところが今回の暴動はこの政策がうまく機能していないことをあらわにしました。

 一つには人種差別の問題で、アラブ系の名前だと就職も難しいという現実があります。ジャーナリストのナセル・ネグルーシュ氏は「フランス風人種差別」と題する論文(ルモンド・ディプロマティーク紙二〇〇〇年三月号)で、二年間に九十三通の応募に対して返事ももらえなかった二十五歳のアブデラティフ氏が、名前をトーマスと変えたとたんに採用面談の通知を受け取ったというエピソードを紹介しています。

 こうした事例や親が失業のため苦しい生活を送らざるを得ない実情を知る子どもや少年たちにとって、それはまさに将来の夢を持てない現実であり、「若者であることが非行に走らせることになる地区」(ニース大学マッテイ哲学教授)にほかなりません。

 フランス共和国の原則である世俗主義(ライシテ)とイスラムとの非親和性も大きな問題です。

 フランスの世俗主義はフランス革命以来のカトリックと共和派のたたかいを通じて「国家と宗教の絶対的分離」として確立し、今年で百年の歴史を持っています。一方、イスラムでは聖俗分離の観念そのものが存在していません。昨年、イスラム女性の象徴であるスカーフを学校で着用することを禁じる法律が成立し、大論議になったのもそのためです。

■共同体主義

 地域的にも固まって住んでいるイスラム教徒たちは、共和制原則よりもイスラムの原則を重視する独自のコミュニティーを形成する場合があります。フランスでは、これを「共同体主義」(コミュノタリスム)と呼び、フランス社会の分裂を促す要素として危険視する傾向があります。

 昨年六月、内務省は特別監視の対象となっている六百三十の「郊外」のうちほぼ半数、人口にして百八十万人が住む区域でその共同体主義的兆候が現れていると警告する報告書を出しました。そこではイスラム説教師の役割が増大しているといいます。

 この報告を暴露したルモンド紙は社説で、長期的に十分な財政的裏づけをもって都市政策を進めない国家・政府は「地域に時限爆弾を仕掛けているのか。いくつもの事実からそうだと答えざるを得ない」と当局の姿勢を強くいさめました。

 今回の暴動は不幸にもルモンド紙の指摘が的中したともいえます。多年にわたる矛盾の蓄積を除去し、どう社会の亀裂を回復するか、フランスは重い課題を背負っています。


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