2005年11月7日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPress
働く条件、こんなに良くなる
つくって晴れ晴れ労働組合
職場で労働組合をつくり、自分の未払い残業代の支払いだけでなく、全従業員の雇用保険への加入や残業代の支払いをかちとってきた青年がいます。東京・浅草の甘味喫茶・和菓子店「梅園」の社員、松崎真介さん(28)。「組合の仲間をもっと増やしていきたい」と意欲をみせます。(中村美弥子)
■未払い残業代に雇用保険も
■和菓子店社員 松崎真介さん(28)
浅草の雷門から浅草寺に続く仲見世通りにある「梅園」。安政元年(一八五四年)創業の老舗で、デパートなどにも店舗を構えています。従業員は二百人を超えます。
浅草本店で働く松崎さんは昨年五月、労働組合を立ち上げました。正規でもパートでも一人から入れる労働組合、首都圏青年ユニオンに入り、一人からの出発。労働組合とは何の縁もありませんでした。
昨年六月十六日、残業代の支払いと有給休暇の日数を法定通りにすることを求めて社長室で会社側との初めての団体交渉。会社側は社長、専務、営業部長が出席し、松崎さん側には首都圏青年ユニオンの役員が同席しました。松崎さんは、毎日顔を合わせている会社の役員を相手にする交渉で緊張したといいます。
この交渉で、会社側は松崎さんの要求にたいし改善していくと表明しました。松崎さんがベテラン店員から受けている嫌がらせについても、会社側が対応することを約束しました。交渉を終え、松崎さんは「晴れ晴れとした気持ちになった」と話します。
■仲間が増えて
おっかなびっくり始めた組合活動ですが、交渉を重ねるたびに一人ずつ組合員の仲間が増えていきました。
「梅園」浅草本店には和菓子売り場と甘味喫茶店があります。松崎さんは和菓子売り場で接客を担当しています。
松崎さんはベテラン店員からの嫌がらせに悩んでいました。会社の労働条件にも疑問をもっていました。二年以上勤めたのに有給休暇が年に七日しかなく(注)、暮れも新年も休みなく働きづめだからです。
昨年五月初め、ベテラン店員が突然、「あなたにはもう残業代は出ないから。社長にもいってある」といってきました。「嫌がらせの度を越えたやり方に“もう我慢できない”と思った」と松崎さんは振り返ります。
友人に相談したところ、首都圏青年ユニオンを紹介されました。首都圏青年ユニオンの人と話をすると、会社が労働問題の法律を守っていないことが次々と明らかに。残業代の未払い、少ない有給休暇、さらにパート労働者の厚生年金や雇用保険、健康保険の未加入(注)があったのです。
会社は残業代を一週間の労働時間が四十八時間を超えた分から払っていました。労働基準法では、労働時間が週四十時間を超えた分から払わなければならず、松崎さんの場合、月に三―四万円の未払いがありました。「未払い分を取り戻せることがわかってうれしかった」と松崎さん。昨年五月下旬、首都圏青年ユニオンから社長あてに労働組合の結成通知書がファクスされました。
初交渉の後も会社と交渉を重ねた結果、少しずつ会社側が動き出しました。昨年十一月、全従業員が雇用保険に加入。残業代も週四十時間を超えた分から支払われるようになりました。「非組合員の同僚から『組合のおかげだよ。ありがとう』と感謝されました」と松崎さんはうれしそう。
そして今年三月、ついに未払い残業代を組合員に支払うとする協定書を結ぶまでになりました。過去二年分、合計三百万円です。組合員のパート労働者は厚生年金に加入することもできました。
■交渉はいまも
松崎さんは「まさかこんなに労働条件がよくなるなんて思ってもみませんでした」と驚きを隠しません。「組合を結成し、会社と交渉してきてよかった。これからも仲間を増やし、職場のみんなの利益になるように頑張っていきたいです」
法令通りの有給休暇を全従業員に与えること、給与を引き上げることなどを求め、会社との交渉はいまも続いています。
■注 年次有給休暇は、勤続六カ月で十日間、一年六カ月で十一日間、二年六カ月で十二日間、三年六カ月で十四日間、最高で二十日間とされています(労働基準法第三九条)。
パートも労働者なので、労働問題に関する法律が適用されます。雇用保険は、一週間の決まった労働時間が二十時間以上で、一年以上引き続き雇用が見込まれる場合、短時間労働被保険者となります。健康保険も一日または一週間の決まった労働時間、一カ月の労働日数が、一般の労働者のおおむね四分の三以上ある場合、被保険者となります。厚生年金も同様に被保険者となります。
■お知らせ■ 「若者に仕事を! 人間らしく働きたい 全国青年大集会2005」(同実行委員会主催)
11月13日 分科会(東京都内)は午前10時半から午後0時半。大集会は午後2時から渋谷区の恵比寿公園(JR恵比寿駅西口下車、徒歩5分)で。問い合わせ=首都圏青年ユニオン03(5395)5359、民青同盟03(3468)5301
■小さな力でも出し合って
首都圏青年ユニオン書記次長、菅原良子さんの話
首都圏青年ユニオンは二〇〇〇年十二月、パート、アルバイトなど不安定雇用の青年たちが中心となって結成した労働組合です。産業、職種、雇用形態を問わず、青年なら誰でも加入できる労働組合です。
青年ユニオンでは組合員になると誰でも団体交渉に出席できます。青年が共同して、青年自身が解決にあたるという共同作業でもあります。
会社と粘り強く交渉し、労働条件を改善させてきた「梅園」の松崎真介さんは当初、おとなしく、会社に真っ先に声をあげるようなタイプではありませんでした。いまでは、自分の意見をしっかり会社に伝えられるような人に成長しました。組合員たちの成長には目を見張ります。
どんな小さな力でも、青年たちがそれぞれの力と知恵を出し合えば解決できることはたくさんあります。私たちは、青年たちが生き抜いていく自信をつけていけるような青年ユニオンをつくっていくことがとても大切だと感じています。
■お悩みHunter
■「いい子」に育った私 人と深い話できない
Q 私は人前で話すことが苦手で、人と深く話すことがダメです。友だち、恋愛などと違って、その場かぎりなら問題ないのですが…。私は祖父母にかわいがられ、「いい子」「手のかからない子」として育ちました。親は、はっきりいって過保護です。最近は親に反発する気持ちが強くなっていますが、自分の脱皮がなかなかできません。(19歳、女性。埼玉県)
■親に“自立宣言”してみては
A 育つ過程で、子どもは欲求不満を持ち、泣いたり怒ったりしますね。でも親は相手にしなかったり、しかったり…。そんな、周りとの間のうまくいかないことをいろいろ経験しながら、がまんしたり意見をいって、分かり合うことを知っていくんですね。そういう“すれ違いの仲を修復する関係”“程よい関係”が大事だと思います。
あなたは過保護に育てられ、「いい子」「手のかからない子」といわれてきたそうですね。ですから、反発したり本音を言う経験を、あまりしないできたのかもしれません。「いやだ」とか、こう思う、といって、お互いに分かり合う機会があまりなかったのでしょうね。
でも、これからでも、遅くはありません。あなたは、自分を大事にする気持ちを持っているようです。いつもいい子でいるのではなく、反発したい気持ちを大切にし、親に自己主張してみてはどうでしょう。意見の違う友だちにちょっとだけ、「違う」と言ってみたらどうでしょう。
少しずつ、すれ違いを修復していきながら、人との関係をつくり、親密性を身につけることができると思います。ちぐはぐさ、すれ違いこそ大事。深い人間関係をつくるきっかけになります。
お父さんお母さんとは、直面した方がよいと思います。“自立宣言”をしてみてはどうでしょう。
■精神科医 上村 順子さん
山口大学医学部卒。代々木病院、松沢病院などで勤務。99年からめだかメンタルクリニック院長。