2005年11月7日(月)「しんぶん赤旗」

農業・農民

農業の担い手減らす

価格保障を廃止、大規模農家だけ交付金

小泉農政「改革」が具体化へ


 日本農業の切り捨てをすすめる小泉農政「改革」の具体策が姿を現しました。十月二十六日に閣議決定された「経営所得安定対策等大綱」がそれです。農産物輸入自由化の“国際ルール”に合わせるとして価格保障を廃止、大規模層に限り交付金を支払う制度が柱です。対象外の農家は作付けが難しくなります。世界最低の食料自給率なのに、担い手を減らして自給率向上はできません。

■批判のなか“緩和”

 二〇〇七年度実施の「対策」は、大規模層に限って交付金を直接支払う制度と集落への環境保全支払いに分けられます。

 日本農業に大きな影響を与えるのは米、麦、大豆、てん菜、でん粉用バレイショを販売する農家に実施する「品目横断的経営安定対策」という名の直接支払い制度です。これまでの価格保障策や経営安定策を廃止する代わりに、厳しい要件をクリアした農家や集落経営体に対して国が交付金を直接支払います。

 小泉内閣が設定した面積基準案は、個別農家で「認定農業者」が四ヘクタール以上(北海道十ヘクタール)、集落の名で法人化をめざす集落営農が二十ヘクタール以上でしたが、農家や自治体関係者から「対象となる農家はうちの集落ではだれもいない」との批判、不安が続出しました。

 このため、今回閣議決定した経営規模要件は、都道府県知事からの申請に基づき特例を作っています。水田の転作で麦や大豆について作業を請け負っている組織も一定基準で対象となりました。(別項)

 申請細目については「客観的・公平性をたもつため国がガイドラインをつくる」(農水省大臣官房)としています。

 農水省が最近発表した、全販売農家を対象に実施した「二〇〇五年農林業センサス」調査では、家族経営は百九十七万戸でしたが、このうち三ヘクタール以上の経営面積を持つ農家は十八万五千七百三十戸(9・4%)しかありません。このままでは九割以上が排除される危険性があることに変わりありません。

■法人化の計画なし

 政府は、“中小農家切り捨て”の批判を意識して、集落営農の法人化(経理一元化)を進めるといいます。しかし農水省の調査では、一万余りある集落営農に参加する農家は四十一万戸程度です。そのうち八割が法人化を計画していません。

 直接支払いの交付金は、生産費を償うとの考えではありません。対象農家になれば「安定」するわけではありません。

 過去の生産実績に応じて「諸外国との生産条件の格差」を補てんする部分と、毎年の生産量・品質にもとづく支払い部分の二段階になっています。交付金水準は、地域ごとに計算するとしていますが、農水省の試算では、現行の小麦、大豆、てん菜、でん粉用バレイショにある同様な制度と同水準です。

 また、輸入自由化などで暴落して基準収入を下回ったとき、減収の九割を補てんします。この制度も現在、米と大豆に適用しているもの。農家と国の積立金の範囲内となっており、九割全額もらえる保障はありません。

 集落と行政の協定に基づき農地・水環境保全を行う集落に、共同活動への支援として助成する新対策が行われます。

 支援単価は十アール当たり、水田では都府県で二千二百円、北海道で千七百円、畑では都府県千四百円、北海道六百円、草地で都府県二百円、北海道百円となっています。具体的な共同活動の内容は全国四百地区の調査結果をまって決めるとしています。

■経営安定対策の名に値しない

■農民連が批判

 農民連は政府の経営所得安定対策大綱について佐々木健三会長談話を発表、価格保障を否定したうえでの対策は「経営安定対策の名に値しない」と批判しています。

 日本の農業にとって食料自給率を向上させるためにも担い手を増やすことが焦眉(しょうび)の課題だと強調。多様な形態の家族経営を対象にした価格保障と直接支払いを求めるとともに、「地域農業を発展させるため自治体や農協、広範な関係者との共同を強め、自主的助け合いによる生産の拡大に全力をあげる」とのべています。


■農家から不安の声

■農水省が農民連に説明

 農民連(農民運動全国連合会)は四日、「経営所得安定対策等大綱」の具体化について農水省から説明を受けました。

 同省から概要を聞いたのち、佐々木健三会長ら農民連の代表は不明な部分について質問。「米価引き下げのもと他産業並みの所得を上げるといって、面積要件をしだいに引き上げる見直しをするのか」「集落営農で法人化ができなかった場合は交付金返金となるのか」―。

 農水省の担当者は「見直し時期の農地集積状況によるが、より構造改革をすすめる」「法人化に努力したものへのペナルティーはない」などと答えました。

 農民連の代表は、農家への説明など、農水省のきめ細かい対応を求めました。

 説明会に参加した千葉県大網白里町の秋葉信一さん(46)は、約三十戸の集落で水田転作の大豆栽培や稲作の作業を受託しています。兼業農家ですが若手として信頼されています。「みんなに説明を聞いてこいと言われてきたが、あと一年で集落がまとまるのか不安だ」と話していました。


■政府の「対策」対象要件例

 ◆認定農業者(水田の生産調整を実施し、他産業並みの経営改善計画を行政に認定された農家)

 基本は北海道10ヘクタール、都府県は4ヘクタール。たとえば都府県で米を3ヘクタール、野菜1ヘクタール経営ならクリア。知事特例は、複合経営で相当な所得のある農家で面積が少なくても米麦など対象品目の収入や経営規模が3分の1以上の農家、離島や新規就農者。

 ◆集落営農

 20ヘクタール(中山間地は10ヘクタール、住居混在など規模拡大が困難な地域は16ヘクタール)、経理の一元化、集落の農地の3分の2以上を集積。

 ◆作業受託組織

 集落の水田転作として麦、大豆の過半を作業受託している組織。ただし生産調整が40%の地域なら20ヘクタール×40%の8ヘクタールで良い。中山間は生産調整率×8分の5で良い。最下限の要件は平地7ヘクタール、中山間地域は4ヘクタール。


■欧米、アジア諸国 価格保障も

グラフ

 農水省は、価格保障を廃止して直接支払い制度に移行する理由として、「WTO(世界貿易機関)における国際規律の強化に対応したもの」と説明します。

 “国際規律の強化”とは、価格保障など国内農業助成金を削減する方向であり、その“対応”として財政支援を問題にされない直接支払い制度に移行するというのが政府の言い分です。

 しかし直接支払いの実態は、高い生産費と低い国際市場価格との差額の補てんです。アメリカやEU(欧州連合)のような農産物輸出国にとっては、形を変えたダンピング輸出補助金になります。発展途上国はこの政策をWTO交渉で問題にし削減を求めています。

 一方、食料を輸入している日本の場合は、過去の生産実績以上に支払いをしないため生産を刺激せず抑制方向に働きます。自給率向上とは逆行します。

 アメリカ、EUとも価格保障政策を残しています。アメリカは生産費を基準にして国際市場が下落したときに補てんする「不足払い」に直接支払いを組み合わせています。EUも「市場介入価格」という価格保障を基本に直接支払いを補てんしています。

 アジア諸国は、農業生産と主食の安定供給のために価格保障である米の支持価格を引き上げています。(グラフ)


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