2005年11月5日(土)「しんぶん赤旗」
核兵器 更新するより廃棄を
英国で世論高まる
核保有国の英国で現存する核兵器システムの更新をめぐる論議を機に、核廃棄を求める声が高まっています。メディア上では、ノーベル賞受賞者や元閣僚らが後継システムの導入をやめて核軍縮を行うよう政府に要求。核兵器を通じた英国の対米従属をただす声もでています。(ロンドン=岡崎衆史)
■ノーベル賞受賞者や元閣僚も
英ブレア政権は、潜水艦発射弾道ミサイル、トライデントなどからなる現有の核戦力が二〇二五年には退役となるため、後継システムの導入を模索。九月半ばには、リード国防相が英紙ガーディアンで国民的議論を呼びかけました。
これに対して、反核団体の核軍縮運動(CND)は、十月半ばの年次大会で、「トライデントの更新は核兵器が戦争で使用される危機を増大させる」として、更新取りやめを政府に求めていくことを決議し、反対署名集めを開始しました。
与党労働党は、この問題をめぐって意見がほぼ二つに分裂。反核派議員は議会会派の会議に更新反対を求める動議を提出しました。しかし、党指導部はこの採決を「党内に亀裂をもたらす」として拒否しました。反核派議員らは、引き続き更新反対を訴えるとともに、この問題での政府の情報開示や議会で採決を取るよう求めていくとしています。
■多額費用に疑問
メディアは、とりわけ、更新費用が百五十億ポンド(約三兆一千億円)―二百億ポンド(約四兆一千億円)かかることに注目。インディペンデント紙十月三十一日付は、一面すべてを使って「二百億ポンドの支出は分別ある措置か」と題する記事を掲載し、「費用は、八百の中等学校(日本の中学校・高校に相当)の新設や六十の中規模病院の新設、または、国民医療制度(NHS=英国の無料医療制度)の医師二万人の新規雇用に匹敵する」と更新に疑問の声を上げました。
有力者も相次いで批判しています。
十月二十八日付ガーディアン紙。「トライデントにノーと言おう」と題した書簡が今年のノーベル文学賞受賞者、ハロルド・ピンター氏と他の五人との連名で掲載されました。ピンター氏らは、「トライデントの後継を導入する正当な政治的、軍事的、道徳的理由はない」として、労働党議員が更新に反対するよう訴えました。
クレア・ショート元国際開発相は一日付インディペンデント紙に寄稿。「英国の名誉ある役割は、国際法への尊敬を高め、多国間機関を強化し、世界で平和、安全、持続的発展を促進することを他の国とともに進めることだ」と述べ、核兵器に固執するブレア政権を批判しました。
■米従属脱却訴え
ショート氏はまた、「それ(核兵器)を米国の承認なしで使用する見込みはない。もしも英国がトライデントを更新すれば、米国のプードル(忠犬)の役割に次の世代を固定することになる」と主張。英国の対米従属の要に核兵器があるとし、そこからの脱却を訴えました。
核兵器を通じての英国の対米従属の問題では、英シンクタンク、外交政策センターのダン・プレシュ上級客員研究員も、「(政府が主張する)独立の核抑止力というのは英国民を偽って安心させるため注意深くつくられた政治神話だ」と指摘。「真の問題は、更新するかどうかでない。英国が米国から独立するかどうかだ。なぜならトライデントの後継兵器は二〇六〇年までは続くことになるからだ」と述べています(インディペンデント紙十月三十一日付)。
世論も更新反対が賛成を上回っています。十月二十四日公表の世論調査によると、トライデントの更新反対は46%、賛成は44%。更新費用で約千の学校を新設できることを知らせた場合は、更新反対は54%に跳ね上がりました(環境団体グリーンピースの要請で調査会社MORIが、九月八―十三日に各約千人を対象に実施)。
CNDの副議長も務める労働党のジェレミー・コービン議員は、本紙に対して、「ブレア政権は国民と協議するといいながら実際にはすでに核施設の拡張や更新に向けた動きを進めている」と述べ、政府の態度を「非常に不誠実だ」と批判。「原爆投下六十年を迎え反核の世論が高まっている今こそ、核兵器を廃棄し、違法なイラク戦争を行い、核兵器を保有していることで英国が失った世界の信頼を取り戻すべきだ」と語りました。
▼英国の核戦力 米国製トライデント・ミサイルから成る潜水艦発射弾道ミサイル五十八基、作戦可能核弾頭二百未満を保有。戦略核部隊は、トライデント十六基、核弾頭四十八発を搭載可能なバンガード級原子力潜水艦四隻で構成。(英国際戦略研究所「二〇〇五―〇六年版ミリタリー・バランス」などから)