2005年11月5日(土)「しんぶん赤旗」

米CIA工作員名漏えい

ブッシュ政権揺るがす


 米中央情報局(CIA)秘密工作員実名漏えい事件は司法妨害や偽証などでリビー副大統領首席補佐官(当時)が十月二十八日、大陪審に起訴される事態に発展し、三日には公判が始まりました。事件は、イラク戦争の泥沼化などで孤立を深めるブッシュ政権を揺るがしています。

■イラク核疑惑あおる

 CIA秘密工作員実名漏えい事件はイラク戦争の根本を問う問題です。発端は、ウィルソン元駐ガボン大使がブッシュ政権によるイラク戦争を批判したことに対し、「報復」としてホワイトハウス高官が、ウィルソン氏の妻がCIA秘密工作員だとメディアに漏えいしたことにあります。それは情報要員身元保護法(一九八二年制定)に違反する犯罪です。

■副大統領関与

 ウィルソン氏は、CIAの要請で二〇〇二年二月にアフリカのニジェールに調査に赴き、イラクが核兵器開発のためにウランを購入しようとしたとの疑惑は根拠がないと報告しました。にもかかわらず、イラク戦争開始直前の〇三年一月の一般教書演説でブッシュ大統領は「イラクがアフリカからウランを購入しようとした」とし、核疑惑をあおりました。

 同大使は〇三年三月のイラク戦争開始後の同年七月六日付のニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、「政府がイラクの脅威をあおるために大量破壊兵器に関する情報をねじ曲げた」と指摘しました。

 この直後からリビー氏は、ニューヨーク・タイムズ紙のジュディス・ミラー記者ら数人の記者に、ウィルソン夫人がCIA工作員だと漏えいしました。

 リビー氏に対する大陪審の起訴で明らかになったのは、ウィルソン氏の批判などでイラク戦争の「大義」が揺らぐなか、罪に問われる危険まで冒してブッシュ政権の高官が批判封じに乗り出したことです。

 ローブ大統領次席補佐官も疑惑の対象になっています。起訴状はウィルソン夫人についての情報をリビー氏に伝えたのはチェイニー副大統領だと明記。同氏が真相を明らかにするか注目されています。

■メディア動員

 事件は、ブッシュ政権がメディアを動員し、イラク戦争に突入した姿を明らかにしました。

 リビー氏とのかかわりを大陪審で証言するのを拒否し収監されたミラー記者はイラク戦争開戦前、ブッシュ政権高官や亡命イラク人からの情報に基づき、イラクの大量破壊兵器保有疑惑を書きまくった人物です。ミラー記者の記事が同紙一面に掲載されると、その翌日にはテレビ番組でチェイニー副大統領がそれを“証拠”として引用し、イラクの脅威をあおりました。

 チェイニー副大統領の片腕として、イラク戦争推進の中心にいたのが、リビー氏です。戦争推進の立場で、血眼になって情報をかき集め、うその「証拠」まで持ち出して戦争に突入したブッシュ政権の重大な責任が改めて問われています。(ワシントン=鎌塚由美)

■虚偽報告で戦争突入 政権ぐるみの犯罪か

 この事件が、どこまで発展するかは予断を許しません。しかし、その重大性は、一九七二年のウォーターゲート事件との比較で論じられていることでも明らかです。

 ウォーターゲート事件は、ニクソン共和党大統領(当時)側による民主党本部(ウォーターゲートビル)侵入事件です。これに端を発した盗聴など一連の違法行為の発覚でニクソン大統領は、議会の弾劾審議が進むなか、七四年に辞任しました。

■ウソと知って

 今回の事件は、虚偽の情報によるイラク侵略戦争の強行に直結しています。問題になっている「虚偽の情報による戦争強行」とは、「ある情報が正しいと信じて戦争を始めたが結果的に誤っていることが分かった」ということではありません。「最初からウソだと分かっている情報を使って国民を欺き戦争に突入した」点に本質があります。それは共謀や詐欺が問われる犯罪行為です。

 事件の焦点であるイラクの核兵器開発では、同国が核兵器を保有せず開発再開の意図もないことは、二〇〇一年十二月のCIAの「全米情報評価」が確認していました。これはCIA以外の米国の多数の公的情報機関の共通認識でした。

■大義づくり

 米国の公式調査団であるイラク調査グループも〇四年十月発表の最終報告で、イラクは九一年に核兵器計画を終わらせており、経済制裁を科せられたイラクには核兵器開発を再開する資金もなかったと結論づけました。

 しかし「初めにフセイン政権打倒ありき」のブッシュ政権に必要なのは、フセイン政権が「増大する脅威」(〇二年一月一般教書)である証拠でした。政権打倒の大義としては核の脅威が決定的でした。

 CIAなどの情報分析の専門機関は、その証拠を提供できない。だからこそ、チェイニー副大統領やネオコン(新保守主義者)らによる特別組織がホワイトハウスと国防総省につくられ、虚偽情報の生産が始まりました。

 今回の事件で問題になっているニジェール・ウラン情報の出所として、米側がフセイン打倒後の政権の中心に据えようとした亡命イラク人、チャラビ現イラク副首相周辺や、ネオコンを仲介者としたイタリア情報機関の名が挙がっています。

 ブッシュ氏やライス現国務長官も、「(イラクの核開発の)最終的証拠が(核兵器投下による)キノコ雲となって現れるまで待てない」(〇二年十月七日のブッシュ演説)といった発言を繰り返しました。政権ぐるみの犯罪がいま問われようとしています。

(坂口明)


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