2005年10月31日(月)「しんぶん赤旗」
主張
中教審と首相発言
教育権保障の視点が欠如
小中学校の教職員給与の二分の一を国が負担している義務教育費国庫負担制度。憲法二六条にもとづく無償の義務教育という原則にたち、教育の機会均等と水準の維持向上を目的としています。
文部科学相の諮問機関である中央教育審議会(中教審)は、現行制度を「今後も維持されるべきである」と答申しました。憲法にそった当然の方向です。
■制度維持の答申を無視
ところが、小泉首相は、中教審答申について、「既存の制度を変えるのに、抵抗が強いことを表している。しかし、それを変えるのが改革だ」とのべました。答申を無視して、制度の縮小・廃止をねらう発言です。「既存の制度」とか「抵抗」という言葉を使うことで、特定の利益の問題であるかのように描いています。
しかし、この制度は、「義務教育について、義務教育無償の原則に則り、国民のすべてに対しその妥当な規模と内容とを保障するため、国が必要な経費を負担することにより、教育の機会均等とその水準の維持向上とを図ることを目的とする」(義務教育費国庫負担法第一条)ものです。
「すべて国民」は、「ひとしく教育を受ける権利を有する」と明記した憲法の要請にもとづき、義務教育の根幹を国が責任をもって支える制度です。国民の教育権を保障する視点を欠いた制度の縮小・廃止論は誤りです。
首相は、「地方の意見の尊重」を繰り返しています。首相のいう「地方の意見」とは、地方六団体の「地方案」のことです。国庫負担制度を廃止し、使い道を特定しない一般財源化することが、地方の自主性を高めるという意見です。
しかし、一般財源化されると税収の多い東京などを除いて四十道府県で義務教育の財源が不足します。それを地方交付税で補うことができなければ、教育水準の格差が生まれます。ところが、(1)国庫補助負担金の廃止(2)税源移譲を含む税源配分(3)地方交付税のあり方―を一体的に見直すこととしている「三位一体の改革」では、地方交付税の削減が前提です。地方の自主性どころか、現状の維持すら困難になりかねません。
中教審の鳥居会長も、「一般財源化した場合に、地方公共団体間の財政力格差による教育格差が生じるという懸念を払拭することはできなかった」とのべています。
義務教育費の国庫負担は、地方に自動的に渡されるべきものです。この制度のもとでも、四十五道府県が独自の判断で少人数学級実施に踏み出しており、地方の自主性が発揮されています。
「地方の意見の尊重」というなら、全国の市区町村の議会の65%から、国にたいして、義務教育費国庫負担制度の堅持を求める意見書が提出されている点に目をむけるべきです。
■教育予算の拡充こそ
日本の教育予算は、全体として不足しています。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、国内総生産(GDP)に占める義務教育費(公費)の割合は、日本が2・7%で、フランス4・0%、アメリカ3・8%、韓国3・5%と比べても少ない状況です。
子ども一人ひとりの成長を保障するために教育条件をもっと整備し、改善していかなければなりません。国庫負担制度の廃止ではなく、義務教育費をはじめ教育予算の拡充こそ必要です。