2005年10月29日(土)「しんぶん赤旗」
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レッツゴー タイガース
球場癒やしたエール交換
日本シリーズ第4戦。試合前から一つ、気になっていることがありました。もし阪神が、ロッテに4連敗してしまったら、試合後、何か起きるのではないか――。
案の定、最後の打者が三振に倒れると、グラウンドには阪神ファンから無数のメガホンが投げ込まれました。
記者であふれるスタンド裏では他紙の記者が、こんなやり取りをしていました。「おまえ暴動担当な」「えっ、私ですか」。顔をしかめながら若手の女性記者がメモ用紙を持って走っていきます。3戦で6人の阪神ファンが逮捕されています。緊張感が走りました。
そんなときです。左翼スタンドの一角で応援していたロッテファンから阪神ファンにエールが送られました。「レッツゴー タイガース レッツゴー タイガース」。シーズン中からのロッテ独特の応援です。
一瞬どよめいた阪神ファン。しかし、すぐにエールを返します。「レッツゴー マリーンズ」。いつもの勢いはなく、ぎこちない様子でしたが、4連敗という悔しさを胸にしまい、エールに応える姿は立派でした。
そして、この瞬間から球場の雰囲気が変わります。それまでは「なにやっとんねん」などと、やじが飛びかい、ピリピリしたムードが、ただよっていました。しかし、阪神ファンが、ロッテナインやファンに心からの拍手を送ったことで、それが和らいだのです。
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今年、ロッテファンはマナーがよく、12球団一と称されました。
選手のミスにも決してやじを飛ばさない。相手の選手でも、ファインプレーが飛び出せば拍手を送る。そんな姿は交流戦でも、セ・リーグに新風を吹き込んできました。
ロッテには“俺たちの誇り”という応援歌があります。7年前、チームが18連敗のプロ野球記録を作ったときのこと。負けつづけても、グラウンドに物が投げ入れられるわけでもなく、やじが飛ぶわけでもありませんでした。そして、うつむく選手たちに、この応援歌を歌い、励まし続けたのです。
そんなファンを、選手も誇りにしています。球団が作製した日本シリーズ用のポスターには、こんなファンへのメッセージが書かれていました。
「『俺たちの誇り』あなたたちは僕らを、そう歌う。ファインプレーには熱く、つまらぬミスには厳しく、鼓舞しつづけてくれる。あなたたちこそ僕たちの誇りだ」
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シリーズ終了後、警戒していた暴動は起きませんでした。
4連敗で元気をなくした阪神ファンも多かったでしょう。しかし、一つのエールが、彼らの心を癒やしてくれた気がします。
スポーツに勝ち負けはつきものです。同時にそれを通して、互いを尊重し、認めあう文化であることを、両チームのファンは示してくれました。
野球界に、こんなファンの交流が、もっと増えてほしい。そう感じた日本シリーズでした。
(本紙スポーツ部 栗原千鶴)