2005年10月29日(土)「しんぶん赤旗」
主張
自民党新憲法草案
平和こわしを国民は認めない
自民党が、「新憲法草案」を発表しました。結党いらい五十年、改憲を党是としてきた自民党ですが、改憲案を、前文を含めて条文化したのは初めてです。
自民党は、総選挙マニフェストで「日本の基本を変える」として、「『新憲法制定』に向けて具体的に動きます」と書いていました。「新憲法草案」が変えようとしている「日本の基本」とは何でしょうか。
■侵略の反省と平和原則
日本国憲法前文の最初の文章は、「…政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」と結ばれています。前文をうけて、第九条は、第一項で戦争放棄、第二項でそれを裏付けるものとして、戦力の不保持、交戦権の否認を明記しています。これこそ、侵略戦争の反省にたって、二度と戦争を起こさない国として歩むという「日本の基本」を定めた平和原則です。
自民党の「新憲法草案」の最大の特徴は、この平和原則を投げ捨てることです。前文を全面的に書き換え、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」という言葉を、完全に削除しています。九条二項も完全削除し、代わって「自衛軍を保持する」と明記しています。
「新憲法草案」は、九条一項を残し、「平和主義」を「継承」するかのような装いもとってはいます。しかし、九条二項の廃棄は、「戦争放棄」を規定した一項をふくめた九条全体を廃棄するのと同じです。「戦力保持の禁止」という二項の規定が「歯止め」になり、自民党政府も、「海外での武力行使はできない」という建前を崩すことはできませんでした。九条二項を廃棄して「自衛軍」保持を明記することは、その「歯止め」を完全に取り払うことを意味します。現に、「新憲法草案」は、「自衛軍」といいつつ、海外派兵もできるようにしており、イラク戦争のような戦争に参戦する道を開くものとなっています。
侵略戦争への反省を捨て、軍隊保持と海外派兵の道に「日本の基本」を変えることは、国民の自由、人権の抑圧につながります。
たとえば、自民党の「新憲法草案」は、前文で、国民にたいして「国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務」を課しています。「国を守る責務」の具体化として徴兵制導入の法律を作っても憲法違反とはならない仕掛けにしています。
また、現憲法第一二条は、自由と権利を獲得してきた歩みを想起する趣旨なのに、「新憲法草案」は、「公益及び公の秩序に反しない」ようにすることを「国民の責務」とし、国民の自由や権利よりも「公の秩序」を優先させています。
さらに、自民党「新憲法草案」は、「司法」の部分で、「軍事裁判所を設置する」規定を新設しています。「軍事に関する裁判」の対象が軍人に限定されるとは限りません。“軍の機密を守る”という名目で一般国民も憲兵隊の監視対象とされ、「軍事に関する」法律に違反したとみなされれば、軍事裁判所で裁かれる可能性もあります。
■「不断の努力」によって
自民党の「新憲法草案」は、平和をこわします。国家権力を強め、国民の自由を抑圧します。
こんなものを国民は認めません。日本国憲法の規定どおり、「不断の努力」によって、平和と人権・自由を保持していきましょう。