2005年10月22日(土)「しんぶん赤旗」

ワールドリポート

間違った戦争で息子殺された

英国“反戦の母”を市民支援


 「ダウニング10」。ロンドンの英首相官邸の住所です。ここの住人の決定でイラク戦争に加わり、占領に固執する英国―。戦争のイメージとダブるこの場にいま、平和を求めるもう一つの英国の姿があります。(ロンドン=岡崎衆史 写真も)

■官邸前で宣伝

 十八日から十九日にかけてのダウニング街十番地の周辺では、イラクで殺害された英軍兵士の家族と支援者が近くにテントを張って、イラク戦争の違法性の調査とイラクからの英軍の即時撤退を訴えました。

 「息子は間違った戦争で殺され、それを訴える私たちの声はこれまで無視されてきました。みんなで立ち上がることで政府に声を届かせたいと思ってきました」。息子のフィリップさんを失ったスーザン・スミスさん(44)です。

 七月十六日にイラク南部のアマラで道路脇の爆弾が爆発して死亡したフィリップさん。二十一歳でした。

 「軍に入るのは家族の伝統で、父親も兵士でした。しかし、今回息子が行かせられたのは、数万人のイラク人を殺した間違った戦争でした。英軍は何もいいことをしていません。ただ、イラク人の憎しみをかきたて状況をいっそう悪くしているだけです」。スーザンさんはいいます。きぜんとした表情でした。

 十月半ばを過ぎたロンドンは日が差している時でもコートが必要な寒さです。しかも名物の雨が時々降ります。それでも、二人の母親を支援するため、数十人の市民、非政府組織(NGO)のメンバーが駆けつけました。年齢は、高校生から七十五歳までさまざまでした。

 イアン・ゴードンさん(48)は、十九日の朝から駆けつけました。

 「ぼくは、基本的に静かな性格で、外でいろんな人に自分の主張を訴えたりするのは苦手なんです。でも、イラク派兵はいくらなんでもおかしすぎると思って、連帯の気持ちを示すつもりできました」

 最初照れくさそうに話していましたが、話が熱してくると「ここに来てうれしかったこと」を伝えてくれました。

 「テントにいると通りがかりの人が励ましてくれるんです。アメリカ人もいました。『がんばれ。アメリカも負けない』と声をかけていくんです」

 国会議員も駆けつけました。

 ジェレミー・コービン下院議員(労働党)は、「政府は、真実を偽って英国を戦争に導いたことを認めるべきだ。今後、真実が英軍を撤退させることになる。英軍を撤退させイラクでの殺害をやめよ」と、ダウニング10に向けて訴えました。

■何かしたくて

 「フィリップのために私は何もしてあげることができませんでした。でも、他の母親に私と同じ思いをさせないために何かしなければなりません」。スーザンさんはかつてこう語ったことがあります(デーリー・ミラー紙九月二十三日付)。

 一カ月たとうとする今イラクの状況はその時より悪化しているようにもみえます。英政府の派兵固執の態度も変わりません。

 イラクでは十六日、米軍が中部のラマディ周辺で約七十人を殺害。逆に、十八日夜には、英軍兵士が道路脇の爆弾で死亡。イラク戦争開始以後の英軍兵士の死亡は九十七人になりました。

 それでも、スーザンさんの表情は、前よりも少し自信に満ちています。

 「訴え続けることが大事です。そうすれば、最後に政府は声を聞かざるを得なくなります。自由や民主主義の国では、政府は、国民の声を代表せざるを得ません。国民の大多数が反対していることを政府はいずれ続けることができなくなるでしょう」

 英BBCが十二日に発表した世論調査によると、イラク戦争は「間違っていた」とする人は57%。英軍の即時撤退を求める人と撤退期日を設けるべきだとする人は54%。

 スーザンさんが力を込めていいました。「私は、ここで、英国民を代表して訴えているのです」


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