2005年10月19日(水)「しんぶん赤旗」
救済迫る母に「金一封で…」
息子は48歳で中皮腫死
“加害企業・国に責任”
市田議員追及
自分の店を持とうと、まじめ一徹で修業してきたウナギ料理の男性職人が、悪性胸膜中皮腫になり四十八歳で亡くなった。アスベスト(石綿)を扱う大手機械メーカー「クボタ」工場の隣に十二年間住み、工場で二カ月働いたことが原因なのに、会社側は責任を認めない――。十八日の参院環境委員会で、日本共産党の市田忠義議員がこんな事例を取り上げ、原因企業と国の責任を追及しました。
この男性は兵庫県尼崎市の武澤眞治さん。
武澤さんは昨年八月、胸痛におそわれ、今年五月に兵庫医大で悪性胸膜中皮腫と診断されました。すでに手術ができない状態で、先月二十日に亡くなりました。
悪性胸膜中皮腫はアスベストが原因とされます。武澤さんは、十二歳から二十四歳までの十二年間、クボタ工場の隣に居住。さらにクボタで二カ月間、アルバイトをしたことがあります。当時、工場は粉じんがもうもうと立ち込めるような状態でした。
奈良県立医大の調査では、クボタ工場の周辺住民の中皮腫による死亡率は同工場の半径五百メートル以内で全国平均の九・五倍、五百メートルから一キロメートル以内では四・七倍と異常に高くなっています。
武澤さんが亡くなる前の八月下旬、母親がクボタを訪ね、「息子の命があるうちに認知してくれ」とクボタに加害責任を認めるよう迫りました。クボタ側は「出ても金一封です」「死んでしまった時は何もすることはない」などという態度でした。母親は「お金の問題ではないのにと、さらに悔しさが増した」とのべています。
市田氏は、クボタ工場と中皮腫との因果関係は調査で示されていると指摘。「クボタは加害企業としての責任を認めていない。加害企業と国が自らの責任を明確にし、救済を進めるのが基本だ」と強調しました。
さらに市田氏は、被害者の家族や周辺住民などの健康被害者救済制度について、「政府が公表した救済策の内容は、単なる見舞金程度にとどまっている」と批判。「被害者に対して労災補償と同じ水準で補償する制度にすべきだ」と迫りました。
小池百合子環境相は「(行政の)不作為があったとはいえない」と国の責任を否定。救済制度について「労災補償の対象とならない方々と遺族を対象とするということで検討を進めているが、額については財源の問題がある」などと答えました。
■クボタ旧工場の近く
■私道舗装に石綿
■尼崎市が公表
兵庫県尼崎市は十八日、市内にある私道の舗装にアスベスト(石綿)が使われていたと明らかにしました。近くに立地していた機械メーカーのクボタ旧神崎工場の石綿が用いられているとの情報もあり、市は石綿除去と舗装の費用を同社に負担してもらう方向で協議しています。
市公害対策課によると、石綿が使われていたのは同市長洲中通一丁目にある私道約四十メートル(幅四メートル)。クボタ旧工場から約四百メートル離れ、自動車は入れませんが、バイクや自転車は通行できます。住民が一九六○年代前半、水はけ対策として旧工場の関係者から個人的に石綿を譲り受け、舗装に使ったとみられます。