2005年10月19日(水)「しんぶん赤旗」
主張
横浜事件再審公判
権力犯罪の実態を明らかに
太平洋戦争中の特高警察による大規模な言論弾圧―横浜事件で、不当にも治安維持法違反で有罪判決をうけた元被告の名誉回復を求める再審公判が、横浜地方裁判所で始まりました。
あまりにも遅すぎた再審開始ですが、特高警察が拷問をしてつくりあげた虚偽の自白を唯一の証拠にした有罪判決(一九四五年八―九月)の誤りを問う流れになっていることは、非常に注目されます。元被告の無実を証明して名誉回復をはかることはもちろん、権力犯罪の実態を明らかにして、二度と繰り返すことのないようにしていくことが必要です。
■拷問による虚偽の自白
横浜事件の元被告・遺族が、最初に再審請求をおこしたのは、一九八六年のことです。そのときは、再審請求に必要な判決書謄本の添付がないという形式的な理由で、認められませんでした。
しかし、横浜事件の判決書などがなくなったのは、裁判所が関係書類を焼却したためです。連合軍の日本占領が始まった時期で、言論弾圧・人権侵害を追及されることを恐れていました。第三次再審請求(一九九八年)にたいして再審開始を認めた横浜地裁の決定(二〇〇三年四月)は、「請求人の責めに帰すべきでない特殊な事情」があるとして、“門前払い”を改めました。
さらに、今年三月十日の東京高裁の再審開始決定は、有罪判決の唯一の証拠が特高警察官らの拷問による虚偽の疑いのある自白であり、無罪判決が相当だとして、再審請求を理由あるものと判断しました。拷問を行った特高警官三人が特別公務員暴行傷害罪で有罪判決(最高裁)をうけていたことも、明確な証拠になると認めています。
こうした流れの中で始まった再審であるのに、検察側は、治安維持法違反の「犯罪」だが、同法は四五年十月に廃止され、有罪判決を受けた被告人も同年十月に大赦を受けており、旧刑事訴訟法の規定どおり「免訴」を言い渡すべきだと主張しました。「免訴」とは、無罪かどうかを判断せずに裁判を打ち切るということです。
これは、形式論で裁判を終結させ、虚偽の自白を強要した特高警察の拷問の実態や、自白だけを証拠にして有罪判決を出した裁判の誤りを隠そうとするものです。検察側の主張にたいし弁護側が、「臭いものにフタをする態度だ」と批判し、きちんと「過程を検証すべきだ」と主張したのは当然です。
違法な取り調べによる冤罪(えんざい)事件は、戦後も後を絶ちません。留置場や刑務所での虐待、暴行も問題になります。これをなくすには、拷問による自白強要の誤りを根本的に反省することが、大前提です。横浜事件をしっかり検証することは、権力機関による人権侵害を防いでいく上でも、重要な意味をもちます。
■思想を処罰する危険
再審公判で弁護側は、治安維持法について、人の思想そのものを処罰対象とした点に特徴があり、拷問による自白追及の危険を内包していたと指摘しています。まったく違法性を問えない行動でも、「危険思想」とのかかわりを自白させれば処罰できるからです。
この危険は、けっして、過去のものではありません。小泉内閣が新設を狙っている「共謀罪」は、犯罪行為をしなくとも、相談し合意しただけで処罰できるようにするものです。思想そのものを処罰対象にすることにつながります。