2005年10月18日(火)「しんぶん赤旗」

横浜事件

特高が拷問で事件ねつ造

60年ぶり再審初公判 弁護側が無罪求める


 戦時下最大の言論弾圧事件とされる「横浜事件」の再審初公判が十七日、横浜地裁(松尾昭一裁判長)で開かれました。治安維持法違反に問われ、有罪とされた故木村亨さんら元被告五人(いずれも故人)の弁護側は「公訴事実はねつ造。神奈川県警特高課(特高)の拷問で虚偽の自白をさせられた」として無罪を求めました。

 有罪確定から六十年ぶりの公判。検察側は治安維持法廃止と大赦を理由に、裁判手続きを終わらせる「免訴」を求めました。

 原判決時の起訴状などの記録が残っていないため、松尾裁判長は弁護団が復元した判決文を起訴状の代わりに採用。弁護側が請求した横浜事件についての著作物も証拠として採用しました。

 元被告と同年代の森川金寿弁護団長(92)ら弁護側が意見陳述。元被告の生前の証言をもとに「折れた竹刀などで全身を強烈に乱打、悪ばと嘲笑(ちょうしょう)を浴びせ、『共産主義者はたたき殺してやる』などといって交互に殴る、打つ、ける、あるいはひざ裏に三角棒をはさんで座らせた」などの拷問の状況を詳述。特高が拷問で得た自白で次々と事件をでっち上げていったとし、「元被告は生涯消えない傷を残された拷問の被害者。誤った自白を唯一の証拠とする起訴、裁判の犠牲者。いかなる意味でも刑事責任を問われる理由はない」と主張しました。

 弁護側はさらに、「横浜事件の大弾圧を可能にしたのは治安維持法だった」と指摘。思想を処罰するために供述が唯一の証拠となり、捜査が必然的に拷問に結びついたと指摘し、「治安維持法は言論、表現、思想結社などの自由に対する弾圧の凶器となった。その歴史、問題点は厳しく追及されなければならない」と強調しました。

 弁護側は、「横浜事件は、えん罪事件にとどまらない思想弾圧、言論・出版弾圧事件。国民の言論表現などの自由が徹底的に奪われた事実を直視しなければならない」と再審の意義を強調しました。

 森川団長は「元被告はすべて亡くなってしまった。貴重な再審公判で、特高警察の暴力の犠牲になった元被告の名誉を回復するために全力を尽くしたい」とのべました。故木村亨さんの妻・木村まきさんら遺族が傍聴席から公判を見守りました。第二回公判は十二月十二日。元被告らのビデオを上映し、遺族らが意見陳述します。

 ▼横浜事件と治安維持法 太平洋戦争中の一九四二年七月、政治学者細川嘉六氏が雑誌『改造』に執筆した論文が「共産主義の宣伝」とされ、同氏が富山県で開いた宴会の出席者ら六十人以上が逮捕されました。特別高等警察(特高)の厳しい拷問などで四人が獄死。約半数が治安維持法違反で起訴され、有罪判決を受けました。事件を機に『改造』『中央公論』が廃刊に追い込まれました。

 横浜市内の警察署で取り調べたため「横浜事件」と呼ばれます。第三次再審請求で東京高裁は今年三月、横浜地裁に続いて再審開始を認め、検察側が抗告を断念。再審開始が確定しました。

 治安維持法は、天皇制批判に死刑を科すなど思想そのものを取り締まる希代の悪法。日本共産党員をはじめ、自由主義的な研究者、ジャーナリストなども弾圧され、逮捕者は数十万人にものぼりました。

 終戦後の一九四五年八月のポツダム宣言受諾で失効。同年十月に連合軍指令で正式に廃止されました。横浜事件ではポツダム宣言受諾後の同年八月末から九月までに有罪判決を確定させました。


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