2005年10月17日(月)「しんぶん赤旗」

障害者「自立支援」法案

福祉壊すこれだけの問題点


 障害者「自立支援」法案は十八日から衆院審議に入り、政府与党はわずかな質疑時間で可決・成立を狙っています。この間の国会論戦で重大問題が明らかになり、障害者の多数が徹底した審議を求めています。

■重い障害ほど重い負担

 現在の障害者福祉(支援費制度)は、収入に応じた負担方式(応能負担)によって低く抑えられ、ホームヘルプや通所施設(就労の場や日常活動の場を提供)は95%の人が無料で利用しています。これを「自立支援」法案は、サービス利用は障害者が「利益」を受けることだとして「応益負担」(一割の定率負担)にかえます。

 手厚い福祉が必要な重い障害の人ほど重い自己負担でサービスを利用しにくくするもので、福祉をこわす仕組みです。

 参院厚生労働委員会の答弁で、厚労省の担当者(中村秀一社会・援護局長)は、これを「福祉の新しい考え方」とのべ、サービスを「買う主体」になることで障害者が福祉の当事者として参画できるようになると表明。「気兼ねなく応分の負担をすることで権利としてのサービスが利用できる」「納税者の理解にもつながる」とのべました。

■工賃をこえる利用料

 「きめ細かい配慮」をしたから「無理のない負担だ」(小泉首相)という政府の主張も通用しなくなりました。

 とくに工賃を超える利用料負担です。自宅から作業所や授産施設に通って働く障害者(課税世帯)は、平均月二万九千二百円(定率負担分、食費、水光熱費)を負担(厚労省モデル)することになります。工賃は平均七千三百円(きょうされん二〇〇五年調査から)。働く意欲を奪うもので、障害者から「なんのために働くのか」という声が上がっています。

 「きめ細かい配慮」として施設入所者への特別の減免(個別減免)がもりこまれました。しかし収入(月四万八千円―十万円の場合)のうち生活費として手元に月二万五千円(一日八百円)を残す仕組みで、収入の六割から七割までを利用者負担として取りたててもいいという仕組みです。

 これを日本共産党の小池晃参院議員は「身ぐるみはぐというのはこのこと」(四日、参院予算委員会)と追及。小泉首相は「誤解。一方的な議論」(同日答弁)とのべ、障害者への痛みをなんら知らないことがはっきりしました。

■公費医療にも負担増

 法案は、公費を導入して自己負担を軽くしている精神障害者の通院費、更生医療(十八歳以上)、育成医療(十八歳未満)を「自立支援医療」として一本化し、福祉サービスの提供とともに原則一割の自己負担を求めることにします。更生医療と育成医療は大幅な負担増、統合失調症やうつ病などで精神科に通う人は現行5%負担から10%負担に引き上げられます。

 心臓病などで三百万円の医療費がかかり、更生医療として現在二千三百円の負担ですんでいるケースが約十一万円の負担(所得税課税世帯)になります。

■重要事項が政省令に

 法案の根幹にかかわる部分はいまだに明らかにされていません。必要なサービスがこれまでと同じように確保されるのか、自分が支払うべき負担額はいくらになるのか、障害者が知りたい中身が二百十三項目におよぶ法案の政省令(政府・省庁の命令)・告示事項に盛りこまれるからです。その内容は法案成立後に決まります。これでは行政に白紙委任することになります。

 とくにサービス内容を左右するのが市町村で認定する「障害程度区分」です。障害がどの程度か、コンピューター判定で区分けし、区分ごとのサービス提供量、サービス費用のうちの国庫負担をどのくらいにするか(負担基準)などを確定するためのものです。

 ところが、障害の特性を的確に反映するための調査項目をどうするのかモデル事業を実施したところ、一次判定の半数が二次判定で変更されました。厚労省は新たな調査項目にもとづく判定基準(コンピューターソフト)を来春までに開発し、来年四月の新制度スタートに間に合わせる方針で、ぶっつけ本番です。判定が違えば、必要なサービスを受けられなくなり、障害者にとっては死活問題です。

 参考人質疑(十二日)で大阪障害者センターの塩見洋介氏は「これでは安全チェックや走行テストで問題ありきとされた自動車に無理やり障害者を乗りこませ、突っ走るようなもの」と批判しています。

▼更生医療 18歳以上が対象。身体障害者の障害を軽減して、日常生活能力、職業能力を回復・改善するために必要な医療。

▼育成医療 18歳未満が対象。障害がある児童、または病気を放置することによって、将来、障害が残ると認められる児童にたいして、手術や治療等により障害を軽減または除去するための医療。


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