2005年10月15日(土)「しんぶん赤旗」
イラク憲法草案きょう国民投票
主権回復の一歩めざす
米軍の攻撃に反発
【カイロ=小泉大介】イラクの主権回復と新たな国づくりの重要な一歩として内外の関心を集める同国の憲法草案の国民投票が十五日、投票日を迎えます。
人口の多数派であるイスラム教シーア派とクルド人に加え、憲法草案反対を表明してきたイスラム教スンニ派勢力の一部が賛成に回ったことで、草案承認の公算が強まる一方、米国による軍事攻撃にたいする反発も高まっています。
■「全宗派支持」
憲法草案はその起草段階、さらには八月末に暫定国民議会が原則承認して以降も、連邦制の導入などをめぐり、これに賛成するシーア派、クルド人勢力と、反対のスンニ派勢力との間で激しい対立を呼んできました。
しかし十二日には、草案賛成派が「今年十二月の正式議会発足後に憲法改正の協議を開始する」との新条文追加を柱とする修正を行い、スンニ派の有力政党、イラク・イスラム党が賛成に態度を変えました。これにより、草案は「全宗派、民族の支持」を得た形となり、賛成派の勢いが一気に増しました。
草案修正後、タラバニ大統領(クルド人)は「これが全イラク国民の新たな協力関係の始まりとなることを望む」と表明。人口の六割を占めるシーア派の最高権威、シスタニ師は側近を通じ、「投票に行き、賛成票を投じる」よう信者に訴えました。さらにスンニ派のヤワル副大統領も「修正は憲法の主要な改正への扉を開いた」とし、賛成を呼びかけました。
■正統性に疑念
一方で、全国民の参加という点では重大な事態が続いています。
米軍はイラク軍とともにスンニ派地域の西部一帯で大規模な軍事攻撃を現在も継続。「武装勢力掃討」を理由にした攻撃は多数の民間人の死傷者とともに、「攻撃下の住民の多くがテントなどでの避難生活を強いられており、彼らは憲法草案の中身さえ知らない」(バグダッド大学政治学部のジュメイリ教授)という状況を生み出しています。スンニ派住民の多数が投票から排除されれば、草案が承認されても、その正統性には大きな疑念が残ることになります。
■スンニ派分裂
軍事攻撃とともに、今回の修正協議を駐イラク米大使館が取り仕切ったように、憲法起草段階から米政権がおこなった異常な介入に対する反発も依然として根強く残っています。
スンニ派有力組織、イスラム聖職者協会幹部のクベイシ師は十三日の会見で、「イラク国民の血の犠牲の上に書かれた憲法草案に賛成するものなど誰もいない。イスラム党は国の分裂をもたらす米国の憲法を支持する立場を撤回すべきだ」と述べた上で、「あらゆる合法手段で草案を否決する決意」を表明しました。
憲法草案は、国民投票で全体の過半数が賛成しても、全十八州のうち、三州で三分の二が反対すれば否決されます。今回、スンニ派は事実上の分裂状態となりましたが、イスラム党以外の同派勢力は逆に反対の姿勢を強めています。
イラクでは武装勢力による攻撃やテロが投票日当日も激化する可能性も高く、当局は投票日とその前後、空港を閉鎖したり州をまたがる住民の移動を禁ずるなど厳戒態勢を敷いています。