2005年10月14日(金)「しんぶん赤旗」

タクシー「規制緩和」 自交総連が調査

賃金も命も削られる

「24時間頑張らないと…」

交通事故も42%増


 「お客が減ってるのにタクシーは増えている」「タクシーが多過ぎる。需要と供給のバランスが壊れている」―。十一日深夜の東京都内、客待ちをするタクシー乗務員たちが訴えました。自交総連東京地連と弁護団が実施した現地調査。小泉内閣がすすめてきたタクシー業界の「規制緩和」で、安全に“赤信号”がともっています。(酒井慎太郎)


グラフ

 時計の針が午後十時をさす東京・港区の台場。「あと四十分ぐらいで二時間待ちになるな」。テレビ局の近くで、待機中の乗務員(64)は一向に動く気配のない空車の列を見つめ、ため息をつきました。

 五分刈りで白いものが目立つ男性はこの道三十八年の乗務歴を持つベテラン。年収は、最も多く稼いだときの約五割、三百五十万円まで落ちたといいます。「月収は、約三十万円でフーフーしてる。ボーナスもなく、娘より給料が少ないんだ」

■20時間の勤務

 午前十時から翌朝六時までの二十時間勤務。勤務明けで一日休み、月に十二回の出番の日は「一睡もしません。寝たら終わりですよ」と水揚げに追われ続けます。「一日五万円は稼がないとメシにならない。以前なら十八時間走れば出てたものが、いまは二十四時間頑張らないといけない」

 「競争を促進する」として、新規参入や増車、運賃などの規制を緩め、過当競争をもたらした二〇〇二年二月の「規制緩和」。調査は、国の誤った政策の責任を告発するとりくみの一環です。

 競争について、「困るのは運転手。会社は困りません。稼働すればするだけ運転手は首を締められる」。太い声が一段と大きくなりました。

 仙台市では、国が適切な規制を怠ったために、収入が極端に減ったと称して、タクシー乗務員六十九人が六月、減収分の総額約一億円の賠償を国に求める訴えを仙台地裁に起こしています。

■低賃金の生活

 全国の増車状況は、約三割増えた仙台市をはじめ、今年一月末時点で一万四千台も増えました。年収は、まともに生活できない低賃金に置かれ、三十七道府県で生活保護基準を下回っています。

 東京都内では、〇二年の「規制緩和」から、今年五月現在までで約二千九百台のタクシーが増車になりました。このため、年収は下がり続け、〇四年度の推定年収は二千四百時間も働きながら、前年比で約十五万円減の約四百二十一万円です。

 賃金が減り続けるのとは逆に、増えているのが交通事故です。都内の〇四年の交通事故は、一九九六年当時から42%増。減収分をいきおい長時間労働で補うための過労運転が大きな要因とされています。公共交通の命である安全・安心を揺るがす事態になっています。

 追い打ちをかけているのが、月に百万円以上を利用する大口の利用者に深夜・早朝の時間帯を走る場合10%から12%割り引く「大口割引」です。都内の各タクシー会社が九月前後から実施していますが、割引分を乗務員に負担させるタクシー会社が多く、自交総連加盟の組合は「労働者に責任を転嫁するな」と交渉を続けています。

■月3万円減る

 無線で配車を待っていた乗務員(45)は「大口割引はすべて運転手の負担です。手取りで月三万円減収になった」と話し、「大口割引をしなければ取引先に契約を切られ、仕事がなくなる。一個人の運転手ではどうにもならない」とやり場のない怒りをぶつけました。

 午後十一時前、待機する約二百メートルの空車の長い列の最後尾に、「三時間待って三千円のお客を運んできた」というタクシーが戻ってきました。ハンドルを握って九年、運賃収入は当時から五割以上も減ったといいます。

 「不景気で賃金カットされたといっても、賃金を五割も削る会社はありません。タクシー業界ではそれが起きている」

 調査は、東京地連の領家光徳委員長(自交総連委員長)ら三役や弁護団が参加。鈴木勇書記長は「多くの労働者から生活悪化を訴える声を聞きました。『規制緩和』の弊害が至るところに生じています。こうした人たちと一緒に、『規制緩和』は失敗だったと国を追及する運動と国賠訴訟の取り組みを強めていきたい」と話しています。


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp