2005年10月9日(日)「しんぶん赤旗」
ここが知りたい特集 NHK受信料
不払い激増 NHK受信料
視聴者の支持と信頼が前提
■そもそもは “健全放送”の負担金
NHKは九月に発表した「新生プラン」で、受信料の強制徴収を打ち出しました。受信料不払いが、四千五百九十六万件ある有料契約対象の三割に上る千三百五十七万件を数え、「受信料の公平負担を」というのが、その大義名分です。NHKのこの措置をどう見ればいいのでしょうか。そもそも受信料制度とは――。
テレビを買うとNHKと受信契約を結び、受信料を払うことになっています。
戦争中に大本営発表で国民を動員、戦争協力の先頭に立ったNHK。戦後、再スタートにあたって、「政治からの独立、自主財政」の原則を掲げました。受信料はそのNHKを維持するための負担金という性格をもっています。
放送法は、戦後五年目の一九五〇年に制定されました。放送について「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送を行」う、とうたっています。また放送が従う原則として「放送による表現の自由」「放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」をあげています。
放送法の三二条は「協会(注=NHK)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」とあります。
放送法に書かれているのは「契約」だけで、「受信料」についての規定はありません。
「契約」とは当然、両者の合意に基づくものです(双務性といわれます)。つまり国民・視聴者が、公共放送としてのNHKを認め、負担金としての受信料支払いを理解するということが前提になります。
受信契約をしない者、また支払いを停止した者への罰則がないのも、受信料が国民・視聴者の「支持と理解」に基づいているから、といわれます。
今日の不払い者の増大は、NHKと受信料制度への「支持と信頼」が大きく揺らいでいることを示しています。
■新生プラン “強制徴収ありうる”
NHKは、「新生プラン」とともに、千三百万件を超える受信料不払いの内訳(九月末見込み)を初めて公表しました。それによると不祥事に伴う支払い拒否・保留が約百三十万件(後日、百二十六万六千件と正式発表)、それ以前からの滞納が約百三十九万件、口座解約などによる未納が約百三十万件、そして未契約者が九百五十八万件となっています。(表1)
このまま推移すると年間五百億円の減収が見込まれることから、NHKは、受信料不払いの人々に、支払いを求める法的手段を導入する考えを示しました。
NHKが発表した「新生プラン」の一つの柱、「受信料の公平負担に全力で取り組みます」。
その中身は、(1)単身赴任者や学生の料金割引制の新設など合理的な受信料体系の検討、(2)口座振替で支払っている人などへの優遇施策の実施、(3)民事手続きによる受信料の支払督促の活用の検討―となっています。
(3)の「支払督促」とは簡易裁判所で行われる民事上の金銭の請求手続です。請求された側が二週間以内に異議申し立てをしなければ、預金の差し押さえなどの強制執行を受けることになります。
脅しともいえる措置。「新生プラン」を発表した後、視聴者からはNHKに対して二日までに一万五千件を超える意見が寄せられました。そのうち八千件が「民事手続の検討」に関するもので、反対意見の方が多かったといいます。
■政治介入 ほおかむり
なぜ受信料不払いが増えたのか。NHKが八月に発表した調査「受信料支払い拒否・保留の理由」では、「不公平感・制度批判など」が19%(二〜三月)から33%(五〜七月)に上昇しています(表2)。
しかし、トップをしめているのは依然として「不祥事・経営陣への批判」です。「隠蔽(いんぺい)体質・退職金・ETV問題」と合わせると、経営について問うものが半分近くになっていることがわかります。
不祥事とは、昨年七月に発覚した音楽番組プロデューサーの制作費流用をはじめとする一連の事件。スタッフから指摘されながら三年もの間、放置されていました。今年一月にはETV番組への政治介入が問題になりました。これらのことで辞任した海老沢前会長の退職金をめぐって批判が出ています。
NHKは「新生プラン」で、不信を増大させる原因になったETV番組改変問題にはまったくほおかむりしたままです。「政治介入はなかった」と言いきっています。その一方、受信料については「公平負担」を前面に立て、「民事手続きによる受信料の支払い督促の活用などについて検討」と、強制徴収を打ち出しています。
NHKのこの新たな対応は、受信料制度の根幹を掘り崩す自殺行為ともいえるものです。また「その先には戦前のような国営放送の道が待っていることになりかねない」と、識者から懸念の声も出ています。
視聴者の中からは、受信料支払い停止の運動も起きています。受信料制度は、国民が金を払ってNHKを支え、NHKは公共放送として自立した公正な放送をする双務契約で成り立つもの。NHKが政治家への番組事前説明をしないことを約束するまでの「条件付不払い」としています。
■弁護士 梓澤和幸さんに聞く
■簡裁での督促は可能だが国民に恥じない放送こそ
NHKは受信料不払いの視聴者について、簡易裁判所に訴えて督促する方法もあるとしています。この問題について弁護士の梓澤和幸さんに聞きました。
◇
受信契約をしている場合、簡易裁判所を通した督促は、法手続き上は不可能ではありません。
不払いの人たちがもし異議申し立てをすれば、百万もの人を相手に訴訟をするのは実際上は大変です。NHKは全部ではなく誰かを、代表として被告とする訴訟を想定しているのでしょう。一つの判決を出して差し押さえをし、皆さん、払いなさいというのは脅しのようで適切ではありません。巨大な抵抗運動がおこるでしょう。障害は大きい。
九百五十八万件とされる受信契約をしていない人や解約した人については、放送法にもとづき契約締結義務があるとして、契約に応ぜよと請求をするのでしょうが、支払い命令を求める簡易な督促手続きでは済まない複雑な法律論となります。
もちろん、NHKにはいい番組がたくさんあります。しかし、大問題になっている政治家からの干渉について、公平な放送かどうか疑問があるのに、きちんとした解明がないままですから、払わないという人のほうに理があるといえるでしょう。
肝心なのは政治家と放送との関係のあり方です。事前にしろ事後にしろ、政治家に説明に行くのが通常業務だなどということはやめ、国民に恥ずかしくない関係をつくることです。
■受信料の位置づけ
1950年6月、放送法に基づく特殊法人「日本放送協会」(NHK)が設立されました。53年2月からテレビ放送がスタート、それまでのラジオ聴取料とともに、テレビ受信料が新設されました。
受信料については、64年に郵政省臨時放送関係法制調査会が答申を出し、「法律により国がNHKに徴収権を認めたもの」と規定、「特殊な負担金と理解すべき」と述べています。
75年、NHK基本問題調査会の報告書は、「受信料制度は、国民の理解と支持によってのみ支えられている」と述べました。
93年、NHKは「二十一世紀への展望とNHKの課題」のなかで、受信料について「特殊な負担金」と規定、以降この表現を使っています。
今日NHKは受信料について、(1)国やスポンサーに依存しない公共放送の財源になっている(2)公共料金ではない(3)放送サービスと引き換えに支払うものではない─と規定しています。
今年3月、放送を所管する麻生太郎総務相は、参院予算委員会でNHK受信料について「善意だけで払うのかということは、今後考えていかなくてはならない」と、NHKの「強制徴収」の方向を是認する発言をしています。
「新生プラン」 昨年来の不祥事、政治介入で失った視聴者の信頼を回復する目的で、NHKの経営の改革をするとしています。三つの柱―(1)視聴者第一主義に立って“NHKだからできる”放送を追求します。(2)組織や業務の大幅な改革、スリム化を推進します。(3)受信料の公平負担に全力で取り組みます―からなります。