2005年10月9日(日)「しんぶん赤旗」
事件リポート
自衛隊の薬物汚染
どこまで広がる
「敵も味方もわからなくなる」という薬物汚染が相次いで発覚した自衛隊員。武器を持つ組織での薬物汚染の危険性や、薬物がはびこる背景を追いました。
■潜水艦乗員にまん延
数カ月間にわたって海中を航行する潜水艦。その乗組員ら七人が、ことし七月末から九月末にかけて大麻取締法違反容疑(使用・所持)で逮捕されました。いずれも海上自衛隊横須賀基地所属。
これまでの調べで、同基地所属の潜水艦「おやしお」など七隻のうち、薬物使用の乗組員は五隻にまで及んでいました。逮捕の隊員の中には、レーダーで敵を探知する電測員や音波探知機(ソナー)で敵の音響データを収集・評価する水測員も含まれていました。
汚染ルートは同じ潜水艦に乗務した先輩・後輩のつながり。インターネットなどを通じて民間人にも密売するなど深刻な広がりをみせています。
■敵・味方も分からなく
「薬物常用者というのは不安と恐怖にかられ、敵も味方もわからなくなる」と語るのは岩井喜代仁さん(58)。薬物依存者の社会復帰施設「茨城ダルク」の施設長です。かつては薬物常用者で、“ヤクの売人”でもありました。
「私自身、車を運転していて道路の壁が崩れてくるような幻覚症状に襲われた」と語る岩井さん。「幻聴に幻覚、誇大妄想もでて、自分をコントロールできなくなる」といいます。
元自衛隊員の一人は「ベトナム戦争では、米軍の薬物常用者が味方に向けて銃を乱射したこともある。武器をもつ自衛隊に薬物常用者がいるということは、そういう危険性をはらんでいるということだ」と指摘します。
■陸海空すべてに汚染
過去の報道を調べてみると、薬物使用などで逮捕された自衛隊員は陸海空のすべてにわたり、この十年で二十四人にも及んでいます(別表)。逮捕された自衛官の中には、地対空ミサイルの発射手や、迫撃砲の弾薬手など武器に直接携わっていた自衛官もいました。
前出の岩井さんは「私が北海道でヤクの売人をやっていた二十年前には、札幌周辺の駐屯地の隊員数人が自ら薬を買いにきていた。その量は三十人分以上あった」と告白します。
■陰湿な隊内いじめも
なぜ、武器を扱う自衛隊に薬物がまん延するのか――。
元陸自隊員は「隊内の上下関係を利用した陰湿ないじめによるストレスなどメンタルな問題は大きい。私自身も上官の上下関係を利用したいじめにあって自衛隊をやめた。暴言や暴力に加え、スパイまがいの調査もやられた。許せないことばかりで、耐えられなかった」といいます。
防衛庁によると、一九九五年度以降、ことし八月末までに自殺した自衛隊員は七百十人(二〇〇五年度は八月末まで)。二〇〇四年度には九十四人と過去最高を記録しました。
原因として「借金苦」「病苦」「職務」「家庭」などが挙げられていますが、「その他・不明」がもっとも多い。隊内の問題がかかわっている可能性があります。
今回の集団汚染事件で、防衛庁は入隊後の隊員に対する定期的な尿検査導入の検討を始めました。しかし、問題はもっと根深い。元陸自隊員は「一般社会での薬物使用の広がりが背景にある」としたうえで、こう指摘します。
「イラクなど自衛隊の海外派遣も増えてきて訓練も激しいし、死の恐れも感じる。きな臭さと不安、そして隊内のいじめなどが薬物に走らせている背景要因の一つではないか」
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