2005年10月9日(日)「しんぶん赤旗」
「共謀罪」が招く
スパイ横行社会
小泉内閣は、特別国会に「共謀罪」新設法案を再提出しました。二〇〇三年通常国会への初提出以来、市民団体や日本弁護士連合会などの強い反対で二度も廃案になった法案をあくまで成立させようというのです。「共謀罪」とは、どんな法律なのか――。改めて法案の問題点をまとめました。(橋本 伸)
■犯罪行為なくても犯罪
現行の刑法は、実際に犯罪行為が行われた場合に処罰するのを原則としています。
ところが、共謀罪はこの大原則を覆し、明白な犯罪行為がなくても、犯罪について話し合い、合意しただけで、まだ準備にもとりかかっていないのに、犯罪とされます。
たしかに「犯罪の合意」があれば、それは悪いことです。しかし、合意といっても、その場かぎりで、“やっつけてしまえ”と気炎をあげたが、だれも本気で犯罪などする気はなかったとか、いったんは本気で合意したが、思い直して止めようということもあるでしょう。今回の共謀罪では、そういう場合まで、犯罪とされてしまう危険が大変大きいのです。
■捜査口実に盗聴・監視も
「共謀」はほとんど当事者だけが知ることです。ですから、その捜査のためには、どうしても協力者(スパイ)を使ったり、盗聴を行ったりすることになります。
そうなると、室内会話、電話、携帯電話、FAX、電子メールが捜査対象になります。
その結果、盗聴への歯止めがなくなり、スパイが横行する監視社会、警察国家になるのではと危ぐされています。
実際、警察庁出身の弁護士、村上泰氏は、共謀罪の実効的な捜査のためには「通信傍受等の新たな捜査手法を必要とする」(NHK「BSディベート」〇五年九月の出演者とその主張から)とのべています。
さらに共謀罪は犯罪の実行着手前に、自首したときは刑が減免されることになっています。このため組織のなかに、警察の協力者(スパイ)をつくりだし、犯罪をもちかけ、犯罪の合意を得たような形をつくった上で「自首」して、関係者を罪に陥れることも起こされる危険があります。
■あらゆる団体が対象
共謀罪は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」の批准にともなう国内法整備を名目に新設するものです。
本来は、テロ組織など国際的に活動する「組織的犯罪集団」の犯罪防止のための法律です。
ところが、政府・法務省が提出した法案には「国際的かつ組織的犯罪集団」という限定がありません。市民団体や労働組合、宗教団体など、あらゆる団体の活動が対象になるのです。
しかも、法案は四年以上の禁固の刑罰を定めたすべての犯罪について共謀罪を新設するため、道路交通法違反や税法違反など六百以上の犯罪が対象になるようつくられています。このため、「犯罪を実行しなくても、警察が『共謀があった』と認定すれば、主観的に取り締まりや組織弾圧を行うことが十分可能になる」(足立昌勝関東学院大教授)と、批判が高まっています。
先の国会では与党議員からも「共謀罪の規定は条約と範囲が違うのでは」と危ぐする声が出ているほどです。テロや組織犯罪の防止を口実に、警察や検察の権限を大幅に強化、市民の人権を侵害する最悪の悪法――。それが法案の内容です。
▼「共謀罪」新設法案 法案の正式名称は「犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」。4年以上の刑を定める犯罪についての共謀は懲役2年以下、死刑または無期もしくは10年を超える刑を定める犯罪についての共謀は懲役5年以下の刑とされています。政府は前国会で廃案になったのと同じ法案を四日に閣議決定、特別国会に提出しました。